地上 1日目
地下都市広しといえど地上は存在する。氷河期に入ったのは半分は人間の責任だ。あまりにも資源を掘り汚染物質を出し続けた人類に地球が耐え切れなかったのだ。まず干ばつが始まり、その次に氷河期が来た。ここ300年で地球はここまで変わってしまったのだ。もちろん300年も経ってしまったこの星の、まだ緑があった頃の記憶を持つ者はいない。だからこそ地上の探索というものは必要なのだ。
ザク、ザクと雪を踏みしめる音、視界は辺り一面の白に時折激しく吹雪が体に吹き付ける。技術革新によって英国連邦の耐寒スーツは世界1の耐冷性を持つがそれでも若干肌寒く感じる。しかし地上は雪が積もっているというわけでもなく、氷が張っているという表現が正しいだろう。地上に上がったのはロンドンにあるシェルターの排気口。上がってすぐ見えるのがかつてビックベンと呼ばれた時計台だ。約300年まえの戦争によって時計部分は破壊され、地面に落ちた残骸と土台部分だけがのこっており、写真に収めようとする。彼女がシャッターを切り次の目標へ向かう。次は旧英国一の自動車工場が見えてくる。今日の目的はここだ。シャッターは凍り付いてて持ち上がらないため爆薬を張り付け退避する。見える位置について爆破スイッチを回す。爆発する瞬間をシャッターに収め爆風を避けるために物陰に退避する。轟音と共に真横を爆風がすさまじい勢いで通り抜ける。ある程度収まったのを見計らって自動車工場の中に入る。今日の目的はここにある自動車のエンジンルームの部品回収が目的で、個人的な目的として旧ビックベンと爆破の瞬間の写真を撮る。地上での写真は高値で取引されるからだ、現在は700連邦ドル(旧ポンドで2100ポンド)にもなる。自動車工場に入ると寒さは消え、若干の温かみを感じる。屋内だからだろうか?ほこりにまみれた工場内を静かに進んでいく。未完成の車から頼まれたエンジンルームの部品をいくつか取り、その場を後にする。物品は袋に入れてバックにしまった。バックにもすでに霜が付いている。よく見ると耐寒スーツにも霜が付いていた。地表での活動時間はおよそ30分程度しかなく、過去に何人もの犠牲者が出た。足早に排気口の中に戻り、上部にあるふたを閉め、固定する。その足で彼女は依頼主のもとへ身かった。
依頼主の家の前まで路面電車でやってくる。ここは11階層の繁華街、その一角に時計屋を構えている店主が今日の依頼主だ。ドンドンドンとドアを叩き、
「地上鳥のオクタ―ヤだ。店主はいるか?」
と声を張り上げる。地上鳥とは地上でものを取ってくる。もじって地上鳥(取り)だ。中からどたどたと足音がしてドアが開く。
「地上鳥かい、まぁ中に入りなさいな」
言われるがまま家に上がる。英国連邦では特に珍しくもない風習だ。上がってすぐ取引の話になる。
「これが頼まれた部品だ。全部で3つある一つ350連邦ドルで売ろう」
店主はニコニコ顔でその内容を受け入れる。ついでに今日撮った写真も見せる。
「ほぉ~きれいに爆発するもんじゃのぉ、一枚800連邦ドルで買おう」
こうして取引を終えた後は写真屋に向かう。各店舗で写真を売りさばき最終的に5店舗回って4800連邦ドルとなった。一か月に大体1400連邦ドルで十二分な生活ができるのでそれを考慮すると十分な稼ぎと言えよう。彼女は家に戻りPCから地上鳥のホームページにアクセスをし、今日の成果を報告する。銀行には既に入金しているので本部に1割そこから差し引かれる。本部からの返信を確認し、パソコンを閉じてコーヒーを淹れる。この時間が至福の時間だ。と、家の固定電話がけたたましく鳴る。どうやら本部からの連絡だ。
「はい、オクタ―ヤです。はい、はい……明日、午後から…可能なら空を、はい、わかりました。失礼します、お疲れ様です」
明日の新しい依頼が入る。明日は予報だとどうやら地上は吹雪がやんで空が見れるという。それを聞いた写真屋が地上鳥に依頼をしたのだ。地上鳥達は命がけで地上へ上る。故に依頼主も慎重に内容を選んで送ってくる。万が一死人が出たら依頼主は多額の違約金を払わされてしまうため慎重になるという意見もある。前金があるという事で彼女は写真屋に向かった。
オクトパス写真館、この街一番の写真屋で各地から写真が集まってくる。正面から入り、インフォメーションにいる女性に声をかける。
「写真鳥、オクタ―ヤ・フォージュだ。主人に用があってきた」
そういうと女性は内線をかけた。
「ご主人様、写真鳥さまが来ていらっしゃいます。はい、承知いたしました」
ガチャっと音を立てて内線を切った女性は立ち上がり、
「会議室でご相談とのことですので、ご案内いたします」
そう言って歩き始めた。彼女の後をついてオクタ―ヤは依頼主との会合に臨んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます