中二病やめて高校デビューしたのに異世界転移した

シュガー後輩

中二病やめて高校デビューしたのに異世界転移した

 カーテンを閉め切った暗い部屋。


 魔法陣が書かれた敷物の上にオレは座り、部屋を見渡す。髑髏や十字架、剣、龍をモチーフにした何に使うかわからない物体が並んだ棚。自分自身で作り上げた神を祀った祭壇、その聖典。戦いに明け暮れた日々の記録。


 オレはそれを見てシニカルに笑う。


 両手にはめていた指無しグローブを外すと、右腕に巻いた包帯をゆっくりと解いていく。現れるのは傷一つない白く細い肌。オレは感触を確かめるように、拳を握り開く。それから眼帯をとり、眼帯の方の目に入れてあったカラーコンタクトもとる。


 どこか身軽になった身体でオレはカーテンを開く。


 「うっ」


 雲一つない空に輝く太陽がオレを照らす。窓を開けると爽やかな春の風が部屋に流れ込んでくる。淀んだ空気が入れ替わる。


 そして敷物の上に戻るとオレは絶叫した。


 「うぁぁぁぁぁ!バッカじゃねぇの!バッカじゃねぇの!オレのアホぉぉぉぉぉ!」


 オレ、武神龍弥は15歳の春、中二病から覚醒めざめた……ごほん、目覚めたのであった。


 「はぁ、はぁ、はぁ」


 苦しい、呼吸ができない。死ぬ、死ぬ、というか死ねオレ。


 今まで中学で作り上げた黒歴史を思い出しては、息がつまる。


 この中学生でもスマホを一人一台持つ時代、下手したらネットの海にオレの痴態が流されて、さらされていた所だ。学校がスマホを厳しく取り締まっていたので助かった。以前学校に在籍していた生徒が公共施設で迷惑行為をする映像をネットに流して炎上したことで、そういう風になったらしい。当時学校にも何百本もの抗議の電話が届いたとか。


 ありがとう、名も知らぬ生徒よ。君のおかけでオレの尊厳は保たれた。オレの黒歴史は皆の記憶の中にしかない。


 …………誰か記憶を消す方法を発見してくれ。


 過去を思い出しても吐き気がするだけなので、未来へと歩みを進めよう。


 そう、オレは変わるのだ。今から心機一転、七変化。七変化もしないが、とにかく変わるのだ。


 中二病でボッチオタクだった中学のオレとは決別し、高校に上がるこのタイミングでオレは変わる。


 運がいいことに、同じクラスの人はオレと同じ高校には進学しない。他のクラスの人はいるが、オレの噂を聞いたことはあっても顔までは知らないだろう。


 これは神様がオレに与えてくれたチャンスだと思った。ここからやり直せと、そう言っているのだ。


 ありがとう神様。


 オレ、高校デビューをするよ。


 そして、真っ当な青春を送るリア充になってやるんだ!



 ***



 「おお、勇者よ!よくぞ我らの祈りに応えてくださった!どうか我が国を魔王からお救いくだされ!」


 ふざけんな神。


 どでかい広間の中心にオレ達はいる。昔、自分の部屋に置いてあった魔法陣とはあまりにも異なる大きくまた精緻な魔法陣の上にいる。


 魔法陣を囲むように騎士が立ち並び、その向こうには先ほど立ち上がり発言した王様らしき人と側近っぽい人たち、あとなんか水晶をもった神官っぽいおじいちゃん。


 いわゆる異世界転移、それも勇者召喚系だ。


 くそっ、せめて中学時代にしてほしかった。そしたらオレも大喜びだっただろう。


 しかし今となっては余計なことでしかない。


 なぜならオレは高校デビューに成功したのだから。


 オレは隣に居る一緒に転移してきた友達を見る。彼女らもまたオレを見ていた。


 「な、何かなこれ龍弥くん」


 勇者召喚かな。


 「さっきまでアタシたち校門にいたのにウケるんですけど。写真とろ」


 やめなさいおバカ。


 「どうする龍弥?ぶっ飛ばすか?」


 黙れバカ2。貴様は少年漫画の主人公か。ぶっ飛ばせるわけないだろうが。


 「まずは彼らの話を聞こう。判断はそれからだ」


 オレは落ち着いた声を作るとそう言った。


 高校入学から2ヶ月ほど、オレは中二病であったこととオタクであることをひた隠し、真面目な青年となり一つのグループに属していた。それは俗に3軍とかランク付けされるようなグループではなく、恥ずかしさを殺して言えば1軍と呼べるようなグループであった。


 そうオレは、リア充への一歩を踏み出していたのだ。


 にもかかわらずこの仕打ち。


 それにしても異世界転移で1軍はまずい。ホラー映画と同じで、異世界転移における1軍の不幸率はかなり高い。だいたいがかませ犬だ。ぼっちでいた方がまだ生存率が高かった。


 大体この後、ステータスチェックで勇者が誰か判明するんだよな。まあ、オレみたいな高校デビューのなんちゃって1軍メンバーが勇者なはずないんだけどね。お願い神様。


 「おお!あなた様が勇者です!」


 もう二度と神には祈らねぇ。


 例の神官のような服を着たおじいちゃんが、オレを見ながら言った。興奮しながら水晶を覗き込むおじいちゃんは正直気持ち悪く、水晶玉をかち割りたかった。


 「おおっ」と上がる歓声。巻き起こる拍手。オラ!騎士ども!こんな若造に拍手してんじゃねぇぞ!今すぐオレをぼこぼこにしろ!弱さを証明してやる!こちとら運動神経だってひどいぞ!


 「こちらの方々はなんと聖騎士!賢者!軍師!素晴らしい才能を持っています!」


 はい、勇者パーティの皆さんですね。本当にありがとうございました。てかバカ2人の職業が頭良さそうなんだが、その水晶玉やっぱりかち割った方がいいんじゃない?絶対壊れてるって。もしくはおじいちゃんの目は節穴。


 でも一緒に下校していたメンバーはこれで全部だ。ハズレみたいな人がいなくて良かったぜ。もし、そんな人がいたら勇者なんて完全に噛ませ犬だったからな。ハハハ。


 「それじゃあ最後に貴方様」


 ぱどぅん?


 いや、オレたちは4人しかいなくて………オレは神官の動きに導かれるように後ろを向く。


 そこには少年が呆然と座っている。


 オレたちが居る中心ではない。まるで巻き込まれたというような位置取りで魔法陣の上に座っている。小柄で、黒い髪で目元を隠す少年がいた。


 ゴクリとオレの生唾を飲む音が聞こえた。心臓がドクンドクンと高鳴る。


 「なんと!才能が空白じゃと!神から何も与えられぬ背信者!神の敵!神から見放されたハズレじゃぁぁぁぁぁ!」


 主人公がいるぅぅぅぅうぅぅ!


 「王よ!今すぐにこやつを殺すべきですぞ!」


 早い早い!展開が早い!ふざけんな水晶じじい!オレ達もまとめて復讐されるだろうが!


 オレは慌てて少年と水晶じじいの間に立ちふさがる。


 「待ってください!いきなりそれはあんまりではないですか!」


 「ですが勇者様……」


 「やめてください勇者なんて。僕はまだ何者でもない。だから勇者なんて呼ばれる資格はありません。同時に彼だってまだ何者でもない。神の敵というのはあんまりです」


 むしろ神の敵ならオレだ。もし神に会うようなことがあったらぶっ飛ばそうと思ってる。


 「僕たちの同郷の人間なのです。どうか、どうかお慈悲をお与えください」


 聞いてるか少年よ。見てるか少年。オレは君を必死にかばってるぞ。


 「神官長よ、よい。勇者様がこう仰っているのだ」


 「しかし王よ」


 「神官長」


 「かしこまりました」


 水晶じじいはしずじすと下がった。でもオレにはわかった。こいつら、目くばせしやがった。オレに隠れてこの少年をどうにかする気だ。王様め、貴様もこれからは王冠じじいと呼んでやる。心の中でだけどな!


 オレは後ろを振り返る。


 「君、名前は?」


 「あ、えっと、ふくしゆうです」


 「へぇや!復讐!?」


 「は、はい、福士悠です」


 あ、福士くんね、福士悠くん。今、そう言う単語に敏感になってるからドキドキさせないでね。


 オレは一つ咳ばらいをはさむと、彼の手を握る。


 「いいか、福士くん。いや、悠。絶対オレの傍から離れるな」


 「ええ!?」


 「オレが絶対に守ってみせるから」


 オレは他の人に聞かれないようにそう小さな声で言った。


 オレたちは今日から親友だ!いや、もしかしたらずっと前から心の友だったかもしれない。うん、そんな気がしてきた。君もそう思うだろ?


 だからお願いします。絶対にざまぁとかやめてください。


 

 ***



 リーンゴーンリーンゴーン。


 どうしてこうなったのだろうか。


 オレは教会で白いタキシードを着て立っていた。


 オレが意識不明になっているうちに、戦争に負け、目覚めたときには身柄を魔王の国へと引き渡されることが決定したあとだった。未来は処刑かはたまた隷属か。覚悟の決まらぬままオレたちは魔王の国に到着したわけだが、あれよあれよという間にこうなっていた。


 誰も何も説明してくれない。


 参列しているオレの頼れるパーティメンバーの方に目を向ける。逸らされる。薄情者どもめ。せめて笑えよ。


 まあ、無理もないか。周りにいるのは自分たち以外モンスターだらけ。ゴブリン、オーガ、オーク、スライムとなんか聞いたことあるモンスターだらけ。そのモンスター達がそれぞれおめかしして参列している。その様相は少し笑いを誘うものだが、当人たちにはそんな余裕はないだろう。


 ギィと重々しいドアが開く。


 白いウェンディングドレスを着た花嫁が入場してくる。


 それは小柄で、長く髪を綺麗に結いあげた少女だった。そのベールの下の顔に誰かの面影を覚える。

 

 式は粛々と進む。


 彼女が誰か?誓いの言葉でそれはわかった。


 「新郎リュウヤ、あなたはここにいる新婦ユウを~~」


 ユウ、ゆう、悠!?体形は合致する。あれだけずっと一緒にいたのだ。面影を覚えることも納得できる。だけど悠は男で……いや、本当にそうか?そういえばわざわざ確認したことはなかった。


 オレは混乱しながらも問われるままに誓いをたてる。あ、誓っちゃったよ。流されるままなんて日本人の鏡かよ。


 「新婦ユウ、あなたはここにいる新郎リュウヤを~~」 

 

 「はい、誓います」


 その声にも聞き覚えがあった。いつも聞いていた少し高めの声。


 「それでは指輪の交換を」


 なんか禍々しいオーラをまとった二つの指輪がでてきた。オレは震える手でその指輪をとる。


 「ごめんね」


 そんなオレを見ながら悠は言う


 「え?」


 「病み上がりなのに急にこんなことをしてごめんね」


 「え、あ、おお」


 返答が拙さすぎませんかねオレ。AIでももうちょっと滑らかに返すぞ。


 「でも、龍弥くんを雑に扱うあの国に我慢できなくて」


 えっと意識不明になったことを言っているんでしょうか?あの、おそらくオレの記憶が正しければ、原因は風呂場でこけたことなんですよ……。なんか、ごめんなさい。


 「許せない!そう思ったら、力に覚醒めざめたの。すごい力。髪は白くなっちゃったけどね」


 そっかー目覚めちゃったかー。


 やっぱりこっちが主人公側。オレの先見の明というか、この世界のテンプレ具合がすごいな。


 「だから今度は私が龍弥くんのことを守るんだ」


 そう言って彼女はオレに指輪をはめる。何だか心臓の辺りが痛いんですけど、呪いの装備とかではないですよね?外れる気がしないんですけども………。


 「だって私は神の敵で、魔王なんだから」


 大魔王からは、逃・げ・ら・れ・な・い。


 「それでは誓いの口付けを」


 オレはドラマを思い出しながら花嫁のベールをゆっくりあげる。


 悠は目を瞑り、かすかに顔を上げる。髪の下はこんな顔をしていたんだな。幼さが残ろ可愛いらしい顔だ。魔王と言われても信じられない。しかしこうも魔物たちが従っているから、そうなのだろう。え?前の魔王は?てか、本当に本当に結婚するの?


 色々な言葉が頭の中を駆け巡り、そしてオレのキャパを容易に越えっていった。


 ええい、ままよ!


 初めての口付けを彼女に捧げた。


 万雷の拍手と野太い歓声が教会をつつむ。


 目の前には可愛く顔を赤く染めるオレのお嫁さん。


 中二病やめて高校デビューに成功して異世界転移して、そしてオレはリア充になった。








___________

「復讐」を人の名前のように聞き間違えるボケを思いついたため書いた作品。つまりあそこがこの作品のメイン。

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