第9話 もぬけの
「
城の中は騒然とし、そのざわつきは次第に大きくなっていったが、
兄の乗る馬のひづめの音が遠ざかる音だけを聞き、その後は周囲の音などまるで耳に入らず、
頭を抱え込んでうずくまり、大きな体を小さく小さく折りたたんで、ただ震える
「こ、殺される。兄上に殺される!」
ブツブツと同じことを繰り返す
ひとしきり怯えた
「ど、どうしたのだ? 城が、静かじゃ」
未だ小さく震える体で立ち上がり、ふすまから廊下に出てみれば、一の気配はおろか、小さなネズミの気配さえしないほど静まりかえっている
「
冷や汗を額から流しながら、家来の名を呼び、足元が覚束ないまま人影を探して
始めはゆっくりと、しかし、徐々に焦りとともに速くなり、城中を探し回ってやっと、
「ハ、ハハッ……。ハハハハ!」
その場に崩れるように膝を地に付け、上体を大きく反らして
「なんと、なんと、誰もおらぬ。誰一人!」
人の居ない城内に
「なんとも人とは怖いものじゃな。あのように我を持ち上げて、楽しい日々を過ごしておったと思うのに、兄が我を見限れば我についてくるものなど誰もおらぬとはな」
「そうか、元々そういうことだったのかもしれぬな。言っても元は父と、そして兄の家来達だ。我に対して忠誠心などあるはずも無い。金払いの良い阿呆と思われておったのだろうな」
自身への嘲笑を浮かべながら、
しかし、既に馬の姿はそこには無かった。
「フッ、馬までもか。なんていうヤツラじゃ」
深く溜息をつき、何も無くなった城を振り返って微笑した
「どうなろうとも、兄に殺されることだけはお断りじゃ。最後ぐらい自分の死にたい場所で死にたい方法で死ぬ」
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