第12話 記念日

 十二月三日、期末試験の最終日だ。

 ついさっきテストの終わりを告げるチャイムが鳴り、全ての教科の試験が終了した。

 ほんの一時間前までは緊張感の張り詰めた空間だったと言うのに、教室がガヤガヤと騒がしくなっていく。

 皆口々に、『帰ったらゲームしようぜ!』とか、『この後皆でお茶しない?』など、この後の予定を話し合っている。

 まぁ、普通の高校生はこんなもんだろう。

 試験で縛られていた分、終わった時の開放感は 物凄い。

 そんな中で『帰って勉強します!』なんて人の方が少ないだろう。

 普通の人だったら、一息吐きたくなるのも当然。

 ――――そう、当然なのだ………それは、冬華も例外ではないのだ。


 俺のスマホに独特の通知音が鳴る………RINEだ。

 俺が持ってる連絡先の数なんて知れてるし、やり取りをするのは両親と暖翔と冬華くらいだ。

 両親とはあまり連絡取らないし、暖翔は試験後部活の練習に勤しんでいるから暖翔でもない。

 となると、このRINEは冬華からだ。

 まぁ、こんな推理みたくしなくても、そろそろ来るだろうなとは思っていた。

 なんたって、試験が終わったのだ。

 楽しい事大好きな冬華から連絡が来ないはずない。

 どうせ遊びの誘いだろう……。と思いながらも、アプリを開く。

 そこには…………。


『ねぇ、この後お買い物行かない?』


 やっぱりな……。

 今日はどこに連れ回されるのだろうか、冬華が家に来てから早一ヶ月、冬華は単純だし

 行動パターンは読めてきているつもりだ。

 冬華が買い物と言うと、三時間はくだらない。

 普段でそんな冬華が、試験終わりだとどうなるのか………。

 俺は少し憂鬱な気分で、冬華の教室へと向かう。

 冬華の教室に着き、教室を見渡すとすぐに冬華を見つける事が出来た。

 まぁ、こんな可愛い子そうそういないからなぁ。


「おーい冬華、来たぞー」

「んっ?夏樹ぃ〜!」


 そう言って俺を視界に捉えた冬華はすぐに席を立ち、俺の元に走ってきた挙句、俺にダイブしやがった。

 ちなみに、ここはまだ人が多い教室だ。

 そんな中で抱き着かれるとなると、導き出せる答えは一つ。

 ――注目の的ッッ!!

 仮にも、美人四天王と呼ばれている冬華が抱き着いているのだ。そうなるだろう。


「おい冬華、離れろっ」

「えー、なんでー?いつもしてるじゃん」

「いや、まぁ……そうなんだけれども」

「てゆーか早く行こ?」

「あぁ、うん……そうだな」


 俺たち二人が教室を出るまで、至る所から俺たちの関係性についての話題が聞こえてきた。

 冬華はこういうの気にならんのかね?




 ♢♢♢




 俺たちはそのまま学校を出て、店が多く立ち並ぶ繁華街の方まで、冬華の言われるがまま連れられてきた。


「どこ向かってるんだ?」

「んとね、ケーキ屋さんだよ!」


 ケーキ屋?今日って何かの記念日だっけ?

 俺の誕生日でも無いしな……。

 まさか冬華の誕生日か?

 それならヤバいぞ、俺プレゼントとか何も用意してないぞ!


「あのー、今日なんかの日だっけ?」

「えー、忘れちゃったの?」

「忘れた?いや、本当に知らないんだけど」


 忘れたかどうかを俺に聞くって事は、俺に関する事か、以前俺に言ったって事だよな?

 まじか……全く分からない。


「じゃあヒントあげるっ!今日からピッタリ一ヶ月前は何日?」

「十一月三日だな……あっ、彼女の浮気が発覚した日記念日か?」

「いやいや!何もめでたくないじゃん!そんな記念日やだよ!」

「じゃあ結局何なんだよ」

「正解は〜〜〜〜っ」


 冬華はじゃかじゃかじゃかじゃかー、とセルフドラムロールを口でする。

 ……ちょっと可愛いじゃねぇか!

 そして冬華が、じゃんっ!と言ってから続ける。


「アタシと同棲し始めて一ヶ月記念日でした〜!!」

「………はあ、そんな事か。というか同棲じゃなくて同居な!」

「そんなのどっちでもいいじゃん!」

「ダメだ。同棲は付き合ってる男女が一緒に住む事を指すんだぞ」

「もう半分付き合ってるようなもんじゃん」


 そう言って冬華はぶーぶー、と言ってる。

 ……それ現実で言うやつ初めて見たわ


「まぁ、もう一ヶ月か……」

「ちょっと無視しないでよ!」

「なんか言ってたか?」

「もういいよ!」


 はぁ……、俺はもう付き合うとか御免だなぁ。

 冬華の事はそういう目で見ないようにしてるし、今のままの関係が続けばいいんだがなぁ。

 もう、一ヶ月か……。


「ケーキ買いに行くんだろ、早く行くぞ」

「はーい」





 ♢♢♢





 歩くこと十分弱、お目当てのケーキ屋にたどり着いた。

 まぁ、当たり前だけど、俺みたいな奴が入るには少し勇気がいる位オシャレなお店だ。

 ……これは冬華がいなかったら死んでたな。

 店内もオシャレで俺の場違い感が凄い気がする。


「夏樹はどれにするの?」

「いま迷ってるとこ、これとこれ、どっちが良いと思う?」

「あっ、それ美味しそうじゃん!アタシが片方買うからさ、二人でシェアして食べない?」

「それいいな」

「うんっ、じゃあ決まったことだし、早く買って帰ろう!」

「へいよ」


 俺はそのまま店をでて、冬華がケーキを買って来るのを待つことにした。

 というか、確かにどっちとも食べてみたかったけど、二人でシェアか……。

 何かカップルみたいな事してんなぁ、俺たち。

 普段は絶対にしないが、たまには良いか。


「買ってきたよー!」


 冬華がケーキを買って店を出てきた。


「じゃあ、帰るか」

「うんっ!」


 てか、今日の冬華心なしか上機嫌だな。

 まぁ、多分理由はケーキだろうけど……。

 さっさと帰ってケーキ食べさしてあげないとな。


 俺たちは直ぐに家路についたが、二人の足取りはいつも以上に軽かった。




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