第9話 お出かけ

 ある日の休日、俺たちはもう二人の生活に慣れてきていて、リビングでそれぞれくつろいでいた。


「……ひまぁぁぁぁぁああああああ!!!」

「っな、なんだよ急に」


 冬華が急に叫びやがった。

 普通に声量バカだし、近所迷惑も良いとこだ。


「今日は日曜日だよ?なんでなにもしないの?」

「何もしたくないからだな」

「お買い物とかしたいよー!」

「無視するなよ、というかお前が金持って無いのが悪いだろ」

「ぐっ、それは確かに」


 本当にこいつは何故居るだけでご飯が出てくるのが当たり前と考えているのだろうか。

 遊びたいならバイトでもすればいいのに、なぜしようとしないのだ。

 不思議で仕方ない。

 でもまぁ、確かに暇だな。

 うーーーん、よしっ。


「冬華、出かけるか」

「え、いいの!?」

「ああ、買い物でも何処でも行ってこい、1万だけ渡してやる」

「ほんと?やったー!!」

「ただし条件がある」

「……条件?」

「ああ、今後の部屋の掃除と洗濯はお前に担当してもらう」

「え!?そんな事でいいの?ちょー楽勝じゃん」


 楽勝ね、本当に出来るのかねー、冬華がこんな事を言う時に限ってロクな事をしないからな。

 まぁ、これからはやってもらうことにしよう。その方が俺は楽だし。


「言質とったからな、絶対だぞ」

「うん、まかせてよ!」

「ほい、一万」


 そう言って俺は財布から取り出した一万円札を冬華に手渡す。


「やたっ!ありがと、夏樹」

「おう」

「じゃあ着替えてくるね!覗かないでね?」

「誰が覗くか!さっさと行け」

「はーい」


 冬華は寝室の方へと掛けて行った。

 そういえば、あいつそんなに服持ってたっけ?

 いつまで居るか分からんしな、また今度買ってやらねぇとなぁ。

 あいつが来てから金がどんどん無くなっていくんだよな。

 まあ、あんまり心配はしなくてもいいがな。


 ちなみに、生活に必要なお金は親が出してくれていて、お小遣い分も少しはある。

 だがそれだけでは少し物足りなかったから、自分でお金を稼いでいるのだ。

 前々から父さんに投資やなんやらの知識を教えられていた事もあったし、そっちで利益かを出ているのだ。

 だからお金の心配はないって訳、このまま行けばもっと稼げそうだし。


 そして、冬華が着替えを済ませてリビングに戻ってきた。


「着替え完了!じゃあ行こっか!」

「……は?何言ってるんだ?俺は行かないぞ」

「え、なんでぇ!?私一人で行ってもつまんないじゃんか!」

「えー、お前友達たくさんいるだろ?そいつらと行けば良いじゃん」

「そんなぁ……、ねぇ一緒に行こーよー」

「嫌だ」

「ねーねー、行こー?」

「嫌だ」

「ねぇ、行こうよーっ!」

「嫌だ」



 ♢♢♢



 ………と、さっきまで頑なに断っていたはずなのだが、俺が今いる場所は、近くの飲食店やら、ショッピングモールやらがある街のど真ん中だ。

 俺はあの後、結局冬華に押し負けてしまって引っ張って来られたのだ。


 はぁ……、外寒いし出たく無かったのにな、家でゴロゴロしていたかった。


 そんな回想をしていると冬華が俺にだけ声を掛けていた。


「ねぇ、どこから行く?」

「どこと言われても、俺はあんまりこういう場所に来ないから分からん」

「あ、確かにそうだね。んー、じゃあまずは服屋さんにでも行こっか!」

「ははっ、仰せのままにー」

「ほら行くよ!」


 そう言って俺たちはまた手を繋いで歩き出す。


 俺は冬華に引っ張られて、大型ショッピングモールの中に入っているオシャレな服屋に入った。

 普段女物のコーナーなんか来ないし、こういうオシャレな服屋にもあまり入る機会がなかったから、俺はソワソワとしていた。


「もう、そんなに緊張しなくても」

「あ、ああ分かってるんだが……、どうもな」

「ねぇねぇ、これとこれどっちが似合う?」


 そう言って冬華は服を2着胸の前に出す。


「分からん」


 はっきり言ってどっちがいいかなんて俺には分からん。

 そもそもオシャレが良く分からんしな。


「と言うか、どっちもお前なら似合うと思うぞ」

「そうかなー」

「そうだよ、お前可愛いんだから」


 そういった途端、冬華の顔がほんのり赤く染まった。


「どうしたの急に、今までそんな事言わなかったのに」

「いや、いい。忘れてくれ」

「え、あ……、分かった」


 結局その後変な空気になったけど、さっきの二着の内一着を買ったらしい。


「あのさ、もう一つ行きたい店あるんだけど、行ってもいい?」

「……?全然いいぞ」


 行きたい所ぐらい別に許可取らなくても行くのに。

 そもそもここまでほぼ無理矢理連れて来させたのに許可をとる必要があったのだろうか?


 そう言って連れられて来たのは、下着を取り扱っている店だった。

 行っても良いかっ、そういう……。


「じゃあ入ろっか」

「え、俺も入るの?」

「うん」

「……なっ、えぇ?」

「ほら行くよ!」


 中に入ると、カラフルな下着がたくさん。

 レースの物とか色んなのが置いてあった。


 しかし、やばい。

 こんな中冷静に居られる訳がないんだが、さっきから無駄に周りを気にしてしまう。

 本当に男がこんな店に入ってもいいのだろうか………。


「そんな不安そうな顔しなくても、彼氏ですって堂々としてたら変に見られないし大丈夫だよ」

「……そんなもんか?」

「そんなもんよ」


 と言うかそれだけじゃねぇんだよな。

 こんな下着だらけの中に居る時点で俺はキャパオーバーだし、一刻も早く店から出たいところだ。


「ねぇ、夏樹これとこれ、どっちがいい?」

「は、はぁ!?そんな事聞くなよ!」


 服でさえも分からないのに、下着なんか全く分からねぇぞ。

 それにそんな聞き方されたら俺のために買うって言ってるもんじゃねぇか!


「分からん!あと俺は限界だから店出とくぞ!」

「あっ、ちょっと!」


 結局、考えても分からなかったし、変に考えてしまってあれ以上あそこには居られなかった。

 そして俺は冬華を置いて店を飛び出し、前にあったベンチに腰掛ける。


 はぁ、ただの買い物がこんなに疲れるとは。

 普段外に出ないからどっと疲れた。


 そうこうしている内に冬華が店から出てきた。


「そんな飛び出なくてもいいじゃんかー」

「す、すまん。ああいう所は慣れてなくて」

「まぁ、いいけど!じゃ、帰ろ?」

「もういいのか?」

「うん、お腹も空いてきたしね。アタシ外食より、夏樹の作ったご飯食べたいから」

「お、おう。そうなのか……。じゃあ帰るか」

「あははっ!顔あかーい。照れてやんのー!」


 冬華が俺の顔を見てニヤニヤと笑う。

 まあ、実際ああ言われて嬉しかったしな。


 そして俺たちはそのまま家路に着いた。


「今日はありがとね、楽しかったよ」

「そうか……、なら良かった」

「また行こうね?」

「下着売り場はもう行かんがな」

「それはもういいよ。今度は映画か何か見に行こうよ」

「まぁ、それぐらいなら」

「やった!」


 そう言って、夕陽に照らされる中で微笑んだ冬華はとても美しかった。

 まぁ、映画ぐらいなら、付き合ってやってもいいかな。

 冬華には言わないが、今日もちょっと楽しかったりしたし。

 ………次もちょっとだけ、楽しみだな。


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