第6話 昼休みと相談

 午前の授業が終わり昼休みに入った。

 じゅが終わるとすぐにスマホを取り出し、暖翔に『屋上で待ってる』と送り、俺は家から持ってきた弁当を持って立ち上がり、屋上へ向かう。

 ウチの学校の屋上では園芸部がちょっとした野菜を栽培しているらしく、部員の休憩用スペースとして、ちょっとした屋根とテーブルと椅子が設置されているのだ。

 だからと言って屋上で昼食はとるやつは少ない。

 理由は暑いし、陽キャ達は中庭とか食堂で飯を食べているからだ。

 俺たち陰キャ側は基本的教室から外に出ない。だからここが空くって訳だ。

 そうこうしている内に、暖翔が購買で買ったパンを抱えて屋上へ来た。

 そのまま俺の対面の席へと座りパンを食べ始めた。


「で、話って何なんだい?」

「ああ、数日前の事なんだが、藍莉の浮気現場に遭遇しちゃったんだよなー」

「………え、本当に?」

「ああ、大マジ」


 暖翔は驚き過ぎたのか、手に持っていたパンをポロッと落とした。


「え、夏樹よくそんな軽いノリで居られるね、大丈夫なの?」

「まぁ、大丈夫だよ」

「そっか、結構いい感じの雰囲気だと思ってたんだけどね、まあ、気に病まない方がいいよ」

「ああ、その点はもうだいたい吹っ切れたから大丈夫」

「そうなの?夏樹だったらもっと『世界の終わりだっ!!』てな感じになると思ってたんだけど」


 暖翔はあははっ冗談みたくと笑いながら不快じゃない程度に揶揄ってくる。

 暖翔は本当に優しいやつだ。今も俺の事を心配してわざと明るく接してくれてるんだろうな。

 そう思うと、胸の奥が暖かくなるような錯覚をする。


「そんなに心配しなくても大丈夫だぞ」

「ありゃっ、バレてた?」


 暖翔は少し照れ臭そうに笑った。

 と、そこで暖翔が何かを考えるような顔つきになった。


「あれ?てことはそれって数日前の話だよね?」

「ああ、そうだが?」

「じゃあ今日一緒に登校して来たっていう女子生徒は一体誰なの?」

「あー、まぁそれも話すか。それがな、浮気が発覚した後に女子生徒を拾ったんだよ」

「へー、拾ったんだ――って、えぇ!?女子高生を?」

「ああ、それも同じ学校の同じ学年の西辻 冬華って奴なんだ。暖翔知ってる?」

「あ……ああ、話した事は無いけど有名だよね、美人四天王って」


 え、冬華ってそんなのに入ってたの?

 意外と人気者だったのか。

 え、てか美人四天王ってなに?俺知らなかったんだけど。

 冬華そんなのに入ってんのか。


「で、しばらく家に住まわせる事にしたって訳」

「急に話が飛ぶね!?」

「いやな、あいつも事情があるっぽかったんだよなー。だからほっとけ無かったつーかさ」

「は、はぁ、」

「んで、冬華に相談とかしてちょっと吹っ切れたって訳」

「そうなんだ……」

「どうしたんだよ?黙っちゃって」

「いや、普通に頭が追いつかないだけ。普通ありえないからね、こんな展開」


 まぁ、確かにどんなラノベ展開かよっ、て感じだしな。

 というか冬華の事話しに来た訳じゃないのに、早く本題に入らねぇと昼休み終わっちまう。


「まぁ、その話は置いといて、一旦本題に入るけどさ、藍莉とこの後どうすればいい?」

「そんなの知るかよ、君達の問題だろ?自分達で話し合いでもしない限り、解決には向かわないよ」

「そうなんだけどさー。なんか連絡するのが気まずくて、」

「夏樹は初めて彼女が出来た中学生だったのかな?」

「しょうがないだろ、今までそんな経験なんてなかったし………」

「まぁそんなの気にせずにちゃちゃっと話のケリ着けといた方がいいと思うよ、後々面倒な事になっても困るだけだと思うし」

「そうだな、連絡……か――――」


 連絡するのって意外と難しいんだよな、あの後も何度か連絡しようかとしたけど、結局出来なかったし、はぁぁぁぁぁ、憂鬱。


 そんな時、キィィという屋上への扉が開く音がした。

 誰か来たのだろうか?

 そんな事を考えていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「夏樹ー、ここにいるのー?………あっ、いた!」


 どうやら冬華が俺の事を探しにここまで来たらしい。

 冬華がとてて、と小走りでこちらに向かって来る。


「夏樹探したんだよ?教室にいないし」

「ああ、すまん。俺普段ここで飯食ってるんだよ」

「そうなんだ、で、そっちの人は?」

「僕は東條 暖翔、よろしく!」

「そ、よろしく」


 冬華が暖翔にとった態度は名前の通り凍えるような冷たさだった。

 ………え、冬華って人に対してこんなに冷たかったっけ?

 俺にだけあんな風に接してくるのか?

 ……なんてな。


「それと冬華、暖翔には俺とお前の関係言ったから」

「そうなの?りょーかい」

「……それだけかよ」

「あっ、そうそう夏樹、アタシお昼ご飯ないんだけど」

「は?購買か食堂で買えばいいだろ、」

「知ってる?今アタシ家出中でお金ないんだ」


 あ、そうだった。こいつただの1文無しのニートだったわ。

 俺は財布から500円を取り出して、冬華に渡す。


「これで買ってこいよ」


 と、渡したのだが、手で制止され拒否られた。


「えー、やだよ。あそこ遠いもん、めんどくさい」

「そんくらい我慢しろよ」

「ぶー、……あっ!そのお弁当分けてよ!夏樹の手作りでしょ?」

「これか?別にいいけど、そんなに良い物じゃないぞ?」

「いーの、いーの!」

「てか、全部食うなよ、俺のでもあるんだから」

「へーい!いっただっきまーすっ」


 冬華は俺のお弁当に手をつけ「おいしーっ!」と言って食べてくれる。

 これがなんやかんや嬉しかったりもする。


「夏樹、これあげる。はい、あーん」

「おう、」


 俺は出された野菜にかぶりつく。

 我ながら美味いな、うん。

 そして冬華が次から次へと差し出して来るが、俺はある事に気付いた。


「お前、さっきから野菜しかくれてないだろ。お前も野菜食え!」


 俺は冬華から弁当と箸を奪いとり、冬華の口へ持っていく。


「うぇー、アタシ野菜って好きじゃなーい!」

「好き嫌いせずに食え」

「うーー」


 俺はどんどん冬華に野菜を食わしていく。

 そんな事をしていると前から笑い声が聞こえた。


「あははっ!君たちまだあって数日なんだよね?すごい夫婦みたいだよっ」


 そう言って暖翔はケラケラと笑い続ける。


「誰がこいつ何かと!」

「そう?僕はお似合いだと思うけどなー、」


 その顔はニヤニヤニヤニヤニヤニヤと、気持ち悪いほど頬が緩んでいる。


「それに夏樹楽しそうだしね〜。ま、僕がここにいたらお邪魔だろうし、そろそろ行くへ。相談は後でLINEででも聞いてあげるよ、じゃあね」


 そう言って手をヒラヒラと振りながらそそくさと去っていってしまった。

 俺が楽しそう?そんな事ないだろ。

 昼休みも残り少ないし、俺も早く弁当食べよ。

 そう思い弁当を見ると綺麗にカラッポになっていた。

 まぁ、犯人は一人しかいないけどな。


「冬華ぁー!俺の分も残しとけよ!」

「ごめんごめん、おいしかったよ?」

「おい―――っ、はぁ………さいですか」


 俺はこの冬華の顔に弱いと思う。

 まぁ、可愛い子に上目遣いなんかされたら怒るもんも怒れないなぁ。


 あーあ、腹へったなぁ。




***

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