第4話 冬華の事
今日は昨日の雷雨が信じられないくらい晴れていた。
これなら冬華も帰れるだろう。
でも、何となく冬華が居なくなってしまうのに喪失感を覚える。
あまり長い時間は居なかったが、もっと一緒にいたいと思ってしまう。
ははっ、俺も彼女と同じで、ほぼ浮気してるようなもんじゃねぇか。
でもまぁ、冬華の事心配だし、最後に家出の理由ぐらいは聞いときたいな。
俺の話も聞いてくれたわけだし。
俺は横でベッドに座ってテレビを見ている冬華に話しかける。
「あのさ、冬華はどうして家出なんかしてるんだ?」
「えっ、」
途端、俺たち2人しかいないこの空間はテレビの音以外聞こえなくなった。
まるで時が止まっているかのように沈黙が流れる。
………そりゃ言いたくないよな、深刻な問題だから1ヶ月も家を出ているんだし、会って間もない俺なんかに教える訳ないよな。
無神経だったな……。
「い……いや、すまん。言いたくないよな、忘れてくれ」
「ううん、いいの……話すよ」
「そ、そうか……」
再び、俺たちの間に沈黙が流れる。
そして5分ほど経っただろうか、冬華が消え入りそうな弱々しい声を出した。
「アタシね、小さい時にお母さんを亡くしてるの……。その後アタシ少し塞ぎ込んでた時期があったのよ。そのせいもあってか、お父さんに迷惑をかけすぎて、だんだんおかしくなっていっちゃったの……。それで、アタシは普通に学校に通うようになったんだけど、お父さんはおかしくなったままで、家に一緒に居るときも、話す時も、ずっとアタシじゃない誰かを見ているようだった。それである日、アタシはたまたま通りかかったお父さんの部屋から声が聞こえて来たのを不思議に思って、聞いてしまったの。『夏海、今日の夕飯とっても美味しかったよ、本当夏海の作る料理は最高だよ』と、誰も居ないはずなのに一人で話しているのを……。もちろん料理はアタシが作ったし、夏海……お母さんはこの世にはもういない。でも、ずっと居ないはずのお母さんと会話してるお父さんが怖くて、あんまり話さないようになった。それからだった。その辺りからお父さん、アタシの事をお母さんだと思って話しかけてくる事が増えていった。アタシと話してる時もお父さんの目にはお母さんが映っていて、それで……私の事を見てくれなくなった。それからアタシは何なんだろう…って思うようになっちゃってさ、怖くなって家を出たって訳」
「そうか……それは、辛かったな」
俺は無意識のうちに冬華の頭を撫でていた。
すると、冬華はふわっ、と優しく笑って続けた。
「もう慣れちゃってたけどね」
「…………っ、」
あははー、と冬華は苦笑気味でいい放った。
その言い方からどれだけの感情が伝わってくるか。
自分を見ずに居ない母を追う父親に慣れてちゃだめだろ、そんなの……悲しいだろ。
俺には冬華が今までどんな思いで過ごしてきたのかなんて分からん。
でも、もし俺がその立場だったら、悲しい。
俺じゃなくてもそうだろう。冬華の親父さんには失礼だが、自分を見てくれない親なんて親じゃないも同然だ。
俺は、哀れみや、同情なんかじゃない、言葉では表せないような気持ちになって、そっと…、優しく、冬華を抱き寄せた。
すると、腕の中からすすり泣く声が聴こえてきた。
「あっ、あれ?なんでだろ、涙とまんないや。ごめんねっ、……」
「いいさ……、好きなだけ泣け」
俺はさらに力を入れて冬華を抱き締めた。
それに応えるように冬華は胸に顔をぐりぐりとうずめ、俺の背に手を回してきた。
♢♢♢
「もう………、大丈夫」
「おう、そうか」
そう言って俺は少し名残惜しいが、冬華から離れた。
俺は冬華に今思ってる事を伝えようと思った。
「冬華……明日、家具買いに行くか」
今日で帰らすつもりだったが、やめた。
こんな状態で帰らしても辛いだけだし、冬華のお父さんには悪いがまだ帰すことは出来ない。
それに……もっと一緒に居たいと思えるようになったから。
冬華といれば、彼女の浮気の事も忘れさせてくれる。だから、もう少しだけ、ここに置いてやる気になった。
迷惑じゃなければ、だがな。
「いやか……?」
「う、ううん!驚いただけ!」
冬華はブンブンと首を振りながら強く否定した。
「じゃ、決まりだな」
「ありがとね、夏樹」
そう言って冬華は俺に抱きついてきた。先程よりも強く嬉しさを噛み締めるようにぎゅーっと、抱き締められた。
そして俺と目が合うと、にぱっ、と眩しい笑顔を見せた。
冬華が元気で居られるならいつまでも置いててやろうかな、なんて考える俺であった。
***
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