第一章 家出美少女ギャル

第2話 家出ギャル



 俺は走った、彼女と知らない奴がキスをしているという現実から逃げるために。

自分では認めたくない……認めたくないけど、俺の脳裏にあの光景が焼き付いている。


 分かってるんだ、俺は……浮気されてたんだ。


 全然気付かなかった、そんな素振り一つも見せなかった、俺と彼女は想い合っていると思っていた、そう……思いこんでいた、のか?


 愛していたのは俺だけだったのか……?


 今までの彼女は俺の事なんか見てなかったのか……?


 ずっと、あいつを見ていたのか……?


 クソ――――ッッ!!


 考えれば考えるほど惨めで情けなくて、怒りが湧いてくる。


 いや、違うな……、彼女とあいつの関係を認めたくないから、怒りという感情が芽生えるんだ。


 現実を受け入れろよ、悲しかったんだろ!?その感情を嘘で塗り固めるなよ!!


 途端、俺の頬を冷たい何かが伝った。


 涙だ……、ははっ、やっぱり悲しかったんじゃねぇか。


 涙が止まらない、でも、涙と共に未練も、想いも、悲しさも、怒りも、全てが流れ出ていくような気がした。


 俺は泣きながら家に帰った……。






  ♢   ♢   ♢   ♢  ♢






 家に着く頃にはさすがに涙は止まっていたが、大泣きしたせいもあって、目はパンパンに腫れ上がり、熱を帯びていることから、目は真っ赤だろうと推測出来る。

 そんなことを考えている内に家に着いた。

 そして、ふと家に目をやると、玄関の前に人影があった。

 俺は高一から一人暮らしだし、親は海外赴任で帰って来れないし、兄妹もいない。

 それに俺の家を知ってる程の友人なんてほとんどいないしな。

 だとしたら……誰だ?

 泥棒か?いや、それなら家の前に座ってはいないだろう。

 まぁ、泥棒じゃないならいいか、今はそれどころじゃないし。

 俺は自分の部屋に入るべく、玄関の前に座っている奴に近づいた。

 ってか、よく見ると女の人じゃねぇか、あと、この制服はうちの学校のだよな……。

 まあ、邪魔だし退いてもらうか……。


「……あのさ、そこ俺ん家なんだけど」


「え、あ……うん、知ってるよ」


 泥棒は顔を上げた。


 面識はなかったが、真っ先にこの言葉が脳裏をよぎった。


 ―――めっっちゃくちゃ可愛い。



 その言葉しか出なかった。だって本当に綺麗だったから。

 100人に聞いたら、100人中100人が可愛い、と言うだろう。

 だからと言って俺の家の前に居て言い訳じゃないけどな。


「知ってるのに何で居んだよ、俺たち初対面だろ?」

「そうだね……」

「はぁ、なら帰れよ、もう22時だぞ」

「やだ……」

「はぁ?なんでだよ」

「帰る場所がないから……だから、今日……泊めてくんない?」


 

 泥棒さんが前に手をつき、上目遣いで頼んできた。

 グラビアとかでありそうなポーズな。


「………無理だ」


 即答は出来なかった。だって可愛いんだもん。

 ただまぁ、今それどころじゃないし、こちとら彼女に浮気されて傷心中なんだわ、いくら可愛いからって知らん女に構ってる暇はない。

 ここで泊めたら俺も浮気したみたいになっちまうし、あと常識的に考えて初対面の奴は泊めん。


「そっか……そうだよね、急に押し掛けて来た奴を泊めてなんてくれないよね、ごめんね…」


 泥棒は酷く悲しそうにしながら立って退いてくれた。


「分かったなら、友達の家とかに泊めてもらえよ、じゃあな」


 俺は家に入った。


 風呂に入って気持ちを落ち着かせようと思ったけど、全然落ち着かん。

 まぁでも、涙を流したおかげもあって、少しは気持ちも楽になった。

 俺は30分程湯船に浸かってから風呂を出た。

 そう言えば、あの泥棒はしっかり帰ったのか?

 まあ、俺には関係ないけど。

 泥棒、彼女より可愛かったかもな、ギャルみたいな、派手なメイクのせいで分かりにくかったけど。

 でも何で俺の所に来たんだろう。

 友達を頼ればいいのに、いっぱい友達居そうなのにな……。

 それとも、喋ったこともない男に頼らないといけない状況なのか?


 そんな事を考えていると、だんだん心配になって来て、俺の足は無意識に玄関の方に向かっていた。

 そして、扉を開けた。そこには体育座りしたままの泥棒がいた。

出てきた俺を見ると、不思議そうな目をして、話し掛けて来た。



「……あれ?どうしたのこんな夜中に出てきて」

「それはこっちの台詞だ。なんでまだ居るんだよ、帰れって言っただろ」

「だって、行くとこないし……」

「はぁ?なんでだよ、友達とか頼ればいいだろ」

「友達にはもう頼れない、かれこれ1ヶ月は泊めてもらってたし」

「1ヶ月!?お前親はどうなってんだよ?」

「分かんない、家庭事情?で、今は家に帰りたくない、ていうか帰れない」


 なんだそりゃ、ふざけた親だな、高校生1人を1ヶ月も放置するなんて。

 ていうか、1ヶ月も家に居なかったら普通警察とかに連絡するだろ。

 

やっぱり、親との間に何かあるのか……。


「………はぁ、しかたねぇ。今日だけ泊めてやるよ、布団はねぇからな、我儘言うなよ」

「ほんとっ!?ありがとう!」



 ………何やってんだか、俺は。



 俺は泥棒を家に上げた。


 詐欺なんて事もあるかも知れないが、この家にそんな高価な物はないし、あの話が本当だった時、なんて言うか、後味が悪いしな。


 今日だけだし、別にいいだろう。


 ま、年頃の男女が一つ屋根の下で寝る、と考えたら完全アウトだけどな。

生憎俺には女子を襲う勇気など持ち合わせてはいないんだけどな。


「あと、俺晩飯食べる前だったんだけど、食べるか?」

「えっ!ご飯あるの?食べる食べる〜。あ、あとさ、アタシ泥棒じゃないから!しっかり名前ある!」


「いや、もう泥棒でいいじゃねぇか、初めて見た時そう思ったし」


 うん、そうだよ、もう泥棒でいいじゃん1日だけだし、こっちのがユニークで良くない?

 あと、言い方アレって何だよ、ど正論を言っただけじゃねぇか、失礼な泥棒なこった。


「やだよ!アタシ西辻にしつじ 冬華ふゆかっていうしっかりした名前あるから!」

「はいはい、分かったよ……冬華。あと、俺は北瀬だよろしく」

「うおっ、初めから名前呼び、やるね夏樹ぃ〜!」

「お前もじゃねぇか……って、え?なんでお前下の名前知ってんだよ。まさか……ストーカーだったり――」

「違うよ!アタシ泊めてもらえる所探すために、一人暮らししてる人探してたんだー、それで夏樹のこと知ったって感じ~」


そ、そうなのか。それもそれでちょっと怖いがな。

まあいいや、俺も腹減ったし、飯にしよ。


「おい冬華、晩飯の用意できるまで適当にくつろいでてくれ」

「はーい」




♢♢♢




「ほい、お待ちどうさん」

「わっ!からあげだ〜!アタシの大好物だよ」

「そうか、それは良かったな」

「「いただきます」」


 ふと、冬華の方を見ると、目を輝かせながらどれを食べようか箸を彷徨わせていた。

 どうやらからあげが大好物というのは本当のようだな。

 そして、どれを食べるのか決めたようで、パシッと大きめのからあげを掴み、口へと運んだ。


「ん〜〜〜〜〜〜っっ!!おいしー!衣はシャクっとした噛みごたえで、そのあとに、口の中にじゅわぁと広がる肉汁。最ッッ高のからあげだよ!」

「ははー、冬華様のご相伴に預かり光栄でございますー」


 といった感じで、俺はどっかの貴族様のしもべみたく振る舞ってみた。


「は?なにやってんの?フツーにキモい」


 結果───マジレスされました。

 え、なんでこんな時だけ普通なの!?そこはノッてくれよ!


「な──────っ!……はぁ、すいませんねっ」

「何拗ねてんのよ、キモっ」

「キモキモ言うなよぉ!」

「まあいいわ、早く食べないと全部食べちゃうよ〜〜っと。あむっ」


 そんな調子で冬華はヒョイパクヒョイパクと、次々にからあげを食べ進めていく。


「分かってるわ、ってか俺が作ったんだぞ!」

「はいはい。あ〜むっ」


 全ッッ然分かってねぇ!

 あーもう!俺も早く食べよう!




♢♢♢




 あの後俺も必死に食べたけど、結局冬華が四分の三ぐらいたべやがった。

 俺の飯なのに、…………俺の飯なのに!!

 注:大事なことなので二回言った。

 俺的には少し物足りないけど、今日は疲れたしなぁ、そろそろ寝る支度しないとな………。


 ……ってか、冬華にまだ風呂入らせてなかったな。

 風呂も入ってない奴を布団には入れたくないし、先に入れるか。


「冬華、お前風呂入ってこい」

「ん、りょーかい。あ、着替えないんだけど?」

「あぁ、そうか。ちょっと待ってろ」


 俺はいそいそと俺の持っている服の中で、唯一着れそうな学校指定のジャージを手渡す。


「ジャージしかないんだが、これでいいか?」

「ん、ぜんぜん大丈夫だよ。じゃ、行ってきます!」



 そう元気に返事をすると冬華は風呂に向かって、とててーと可愛い擬音が出そうな感じで走っていった。





 ♢   ♢   ♢   ♢   ♢






「ふーっ、疲れとれたーっ!」 

「そうか、なら早く寝ろ」




 冬華は風呂から上がると、まるで自分の家かのようにくつろいでいた。

 と言うか、本当に早く寝たい。

 今日はいろいろありすぎて疲れてんだよ、寝させてくれよ!

 あ、もちろん冬華が風呂に入ってる様子を想像してたりなんかしないよ?



「はいはい、じゃあアタシ床で寝るからおやすみー」

「いや、まて、やっぱりお前がベッドで寝ろ」

「え、なんで?アタシ床でいいよ」

「さすがに女子を床で寝させるのは気が引ける」

「あ!分かった、私の残り香を楽しむ気だね!私かわいいからな~☆」

「はぁ……」


 残り香ってなんだよ!

 てか、かわいいとか自分で言うか?

 それに、最後の☆は何なんだよ。

 ほんとツッコミ所満載な事を言いやがる。

 残り香を楽しむ気なんざ1ミリも湧かないわ、なんせ浮気されたばっかりだしな。

 ………まぁ、少しは落ち着いたな、阿保のおかげかもしれんな、少し感謝。

 だが、さっきの言い分は否定しておこう。


「そんな訳ないだろ、俺は……彼女がいるし」


まぁ、もう彼女と言えるかどうか分からないがな……。


「え!そうなの?じゃあやっぱり出て行くよ……明日には、」


 思わず明日なのかよ!とツッコミそうになってしまった。

 え、普通彼女が居るって知ったら出て行かないか?

 やっぱ、変な奴だなー、コイツ。


「まあいい、もう今日は寝るぞ」

「はーい、おやすみなさ~い」

「おやすみ」



 俺は電気を消して、薄れていく意識に身を委ねた………なんて出来る事はなく、隣のベッドで可愛い同級生が寝てるとかどんなラノベ展開だよ、こんな状況で寝れるやつほとんどいないぞ。

 というかすっぴんの冬華めっちゃ可愛かった。

やっぱりメイクなしの方が良かったな、うん。

 ……ってか、俺は何を考えてるんだ。


 ―――はぁぁぁぁぁ………。


 本当に今日は色々あったな、彼女の浮気現場に遭遇して…………、あ、また泣きそうになってきた。


 あ――、早く寝てぇ……。


俺はそう思いながら目を閉じる。

まぁ、当然こんな心境で寝れる訳も無く、眠りに着く頃には外がぼんやりと明るくなっていた。










***


作者の東雲です。

先に言っておくと、やはり作品の大本命となるギャルが出てきていなかったので、二話まで投稿しておく事にしました。

まぁ、ギャルが出てきたと言ってもまだまだ序盤ですし、全然関わって来てないですがねw

今の段階で面白いぞ!って思えるかは分かりませんが、待ってくれてる人に向けて言うと、必ず面白くして見せます!

まだ少しかかりそうなのですが、どうかお待ちください。

作品をフォローして頂くと更新した際に分かり易いので、是非お願いします。


☆、レビュー等々お待ちしております。







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