第12話
けれど、私は専門家ではない。
本当は本格的に学びたいと思いはじめていたけれど、少なくとも妙子さんにもう少しついて一緒の現場で働くことで、自分自身を強くしてからでも遅くはないと思っていた。
特に、今回預かることになる暴力とネグレクトを受けていた男の子は、私にとって一つの超えるべきハードルになるような気がしていた。
松本功くん。5歳の男の子。
全身に殴られた痣、火傷の跡。とくに火傷は、アイロンをあてられたものだったという。こういった虐待は日常化していたようで、泣き叫ぶ声は――通報した近所の人がときどき耳にしていた。しかし彼女もパートに出ており、つねに家にいたわけではなかったことから、明らかな不信感に発展するまで時間があった――。
明日は彼が「ほほえみ」に来る。
私は本格的な勉強をすることを先延ばしにした分、関連する本を読んでみることにした。縦長の「新書」というのを買ったのは初めてだ。本と言えば小説しかほぼ読まなかったから。
「身体的虐待、ネグレクト、心理的虐待、性的虐待」
「現在の児童虐待防止法では、子どもに対する不適切な養育は、この四つのタイプに分類されている」
(※講談社現代新書『子ども虐待』より。著者・西澤哲氏、2010年10月発行)
功くんは直接の身体的暴力を受けていたが、それだけでなく、食事を与えられなかったり、汚れたまま放置されて不潔だったりしたという。そして当然、言葉の暴力も受けていたはずだ。
読みはじめた本の中の事例は、真奈美には「身近」であって「身近」ではない、目をそむけたくなるようなものばかりだ。
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