第9話

「私は、……こんなことをいうとなんですけど、自分の子どもを育てる、いえ愛せる自信がないんです。だから怖くて」

 それを聞くと妙子さんは目を丸くして笑った。

「子育てに自信をもってやっている人なんて、多分いないわよ。そりゃ、何人目かなら別だけど。みんな最初の子は不安でよく分からなくて、試行錯誤で。いらいらもするし、追いつめられるし」

 今度は私が目を丸くする番だった。

「そうなんですか」

「そうよ」

「なんか私……」

 甘えていただけなのだろうか。私は母を母と思えないのだ。大人になってからはっきりと自覚した。母が私を生んだ年齢を超え、母も若く経験も未熟で、苦労して私を育てたに違いないと理解した。それでもなお、母を母と思えない。感謝はしている。生んでもらって育ててもらった。けれど、どうしても、自分が子どもを持って、その子を自分の子と思って愛せる自信がない。

 高齢出産が増えているとはいえ、そろそろ本気で考えなければならなかった。

「案ずるより産むが易し、ってずばり言うでしょう」

 妙子さんはまだ笑っている。

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