第8話

 だんだんベテランの妙子さんもいろいろと手を焼いたり試行錯誤したりしていることがわかってきた。それでも妙子さんはめげない。

 あるとき、一緒にお昼のお弁当を食べているときに、突然妙子さんが聞いてきた。

「真理奈ちゃんはもう30過ぎてるのよね。旦那さんもいる。子どもは考えないの」

 どきりとした。夫の両親はそれを心待ちにしているのを私は知っている。けれど、とても酷いことだけれど、私は子どもを持つ気はなかったのだ。

 夫には妹がいる。その子の結婚は間近だ。孫の顔はそちらで満足してもらいたい。

「子どもを持ったら、子どものための人生になるのが嫌なんです」

 私は答えた。不興を買うのを覚悟で。夫にも実はまだ本当のことを話していない。『まだ仕事に打ち込みたいの』といって待ってもらっている。

「最近の人はそういう考え方も多いみたいね」

 妙子さんはとくに気分を悪くしたふうでもなく答えた。

「私なんて、結婚も早かったし、子どももすぐ作っちゃった」

 そういって笑った。

 私は閉じ込めておいた心のふたが開くのを感じた。

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