第6話
こんなことがあった。6歳の毅くんが夕ご飯のピーマンをテーブルの外に投げた。私は慌ててそれを掃除にいったけれど、心は混乱した。どうしたらいいのだろう。毅くんはネグレクトされて気まぐれに父親に暴力を受けていた。父親は酒乱で気に入らないと皿をひっくり返し、夫婦げんかが絶えず、そのとばっちりをしょっちゅう受けていた。
私の肩に妙子さんが手を置いて制した。
「これは許してはいけないのよ」とささやく。
「毅くん、自分で拾いなさい」
怖い声で毅くんに言った。毅くんはびくりとする。
「あなたは甘えている。嫌いなものは捨てていいと思っているでしょう。でも、それを毅くんが食べられるようにたくさんの人が手をかけてきてくれたことを考えたことはないの」
毅くんは怯えている。いままで叱られたことがないのだと思った。
「農家の人が土を作って種を蒔いて、肥料をやって、水をやって。そんなこと、あなたにできるの?」
さらに続ける。
「食堂の人がそれを切って炒めて、味をつけて、ようやく毅くんが食べられるようにしてくれたものよ。それを捨てるなんて」
妙子さんは本当に怒っている。毅くんはべそをかきながら、テーブルから離れた。
「逃げれば解決するの」
厳しい。引っ込みがつかなくなった毅くんはそこに立ち尽くしている。
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