第2話

 愛情などというものは複雑怪奇でよくわからない。だからこそ多くの文学作品などで、愛をテーマに物語が延々とつくられてきたのだろう。


 私は、30を過ぎて結婚して、夫にはこれ以上ないくらいの愛情をもたれている、と思う。「思う」をつけ加えるのは、夫を疑っているわけではなくて、私自身が愛情を受け入れるということができない人間だからだ。


 男女の愛情のほかに、親子の愛情や友情に似た愛情もあるだろう。


 わが「レンタル愛情業・ほほえみ」が扱うのは親子の愛情のみだ。それはそうだろう。男女の愛情を求められたら困る。


 プロとして私が求められたのはプロとしての愛、演技ではない本物の愛。そんなもの、ありえるのか。最初は私もとまどった。


 最初の仕事は虐待から保護され、施設に入ることが決まっている3歳児。母親のネグレクトを受けてきた。母親が誤って熱湯をかけた。その男の子は当然大声で泣き叫んだ。そこからネグレクトが発覚した。やけどのほかに傷跡はなく、暴力を受けていたわけではなかったようだが、薄汚れて髪は伸び放題。汚れて束になっていた。全身が臭った。そういう子供だった。


 もちろん手当てもされてきれいに身体も髪も洗ってもらって新しい服を着ていたが、上目遣いにうかがうように私を見る子供に嫌悪を抱いた。

 でもそれではいけない。

 私はそれが、人間の子ではなく、私の好きな猫の子どもだと思い込んでのりきろうとした。

「かわいいね」といいながら優しく頭を撫でた。それをくり返したが、子供の表情は変わらなかった。

 そのあと、私は社長に強く叱責された。まだまだ愛情のプロとはいえない、と。どうしたらいいのか、私はとまどうばかりだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る