第174話 まさかこんなところで出会うとは


俺が見た常盤さんのレベルは30だ。

かなりのものだろう。

「あの・・すみません。 私はどの組織にも入るつもりはないのです」

俺の回答に常盤さんは微笑みを崩さずに答える。

「なるほど・・内閣調査隊にいたと聞いたのでね。 その実績は大きい。 特に問題も起こしていないようだし、戦力として我々に欲しいと思ったまでだ。 周囲は我々のクランを最強だの、年寄りだの言っている人たちがいるが、おっさん連中で気ままにやっている集団だ。 もし気が向いたらいつでも声をかけてくれたまえ」

常盤さんが気さくに話してくれる。

「すみません、本当に・・」

「いやいや、ワシの方こそ不躾ぶしつけな要求をいきなりして申し訳ない。 ワシらのクランは皆ストイックな連中ばかりじゃからな。 人が集まらんのじゃ。 料理に凝るヤツや剣に凝るヤツ、身体強化に凝るヤツなど、いわば変人の集まりじゃな、アハハ・・」

常盤さんが大笑いする。

これって、笑っていいところか?

俺は微妙に顔を引きつらせていた。

スッと常盤さんが立つ。

「話は以上だ。 村上さん、ありがとう。 君みたいな青年が、まだこの世の中にいたとは、世の中も捨てたものじゃないな。 佐々木さんもありがとう」

常盤さんは俺と佐々木さんに礼を言うと、颯爽と部屋を出て行った。


「ふぅ・・緊張しましたぁ」

佐々木さんがぷはぁと息を吐く。

「いい人ですね、常盤さんって人」

「えぇ、律儀な方で真面目な人なのです。 ただ、ルールを逸脱する人たちには容赦ないと聞いてます。 だから緊張しましたぁ」

「なるほどね」


<白狼の事務所>


「リーダー、どうでしたか?」

常盤さんが事務所に入ってくると、壁に背中を当てて立っている男が声をかける。

腰には刀を差していた。

「うむ、若いのになかなかの人物のようだ」

「フフ・・で、断られてきたわけですか」

「まぁな・・でも、誘いというのはこういうものだろう」

「リーダーがいつも言うように、取りあえず記憶に残しておくだけでいい、でしたっけ?」

「そういうことだ。 そのうちその記憶が熟成されて、必要になれば向こうからやってくる。 そうでなければ縁がなかっただけだ」

「リーダーらしいや」

「ま、出会いってそんなものだろ? それよりも、ダンジョン攻略の準備はどうだ?」

常盤さんが椅子に座る。

「メンバーがきっちり揃えば問題はないと思います。 ただ・・」

「フフ・・そうだよなぁ・・ワシらのクランは自由がモットーだからな。 全員集合は稀だな」

「はい、それも縁がなかったということで」

「ハハハ・・一本取られたな」

常盤さんは笑顔でうなずく。


<ハヤト>


俺は自宅に帰ってきていた。

ただ、ギルドを出る時に、嫌な奴というか生理的に受け付けない人と出会っていた。

斎藤というおばさんだ。

ドラッグストアでバイトをしていた時に、入社当時から俺に喧嘩でも吹っ掛けるような話し方をするおばさんだった。


ギルドの出入り口で入ってくる人がいた。

俺は一歩下がり道を譲る。

その人が立ち止まると、俺の方を見て作り笑顔で挨拶してきた。

「あら、村上さんじゃない。 お久振り! 内閣調査隊を引退されてからどうされているのかと思っていたら、冒険者ですか?」

俺は黙ってうなずく。

「ドラッグストアの方は人も足りてるし、冒険者も大変ですね」

「は、はぁ・・」

「まぁ、冒険者は一攫千金できるって聞きますし、村上さんなら似合っているでしょうね、オホホ・・」

・・・

・・

おばさんは笑顔で、ところどころ嫌味な言葉を混ぜながら何やら話している。

とにかく自分がマウントを取りたい人だ。

ただ、世の中、おばさんを敵にしてはいけない。

これは俺の中のルールだ。

後で面倒なことになる。

だからひたすらマタドールよろしく受け流していた。


おばさんは、リアルにオークとゴブリンを足して2で割ったような体形かつ見た目だった。

こんな世界になる前には、本当にこんな人間がいるんだなと思っていたりした。

その思いを読まれたのかもしれない。

「・・で、村上さん、冒険者って儲かるの?」

おばさんは金銭には敏感だ。

「は、はぁ、それなりにはお金になったりもしますね」

「そうなんだ、10万か20万くらいにはなるのかしら?」

どうやらおばさんは、冒険者がどういうものか知らないらしい。

いったい何しにギルドに来たのだろう?

ま、そんなことはどうでもいい。

「さぁ、人によって様々ですが、桁が違う人もいると思いますよ」

俺の言葉におばさんは少し食いつく。

「へぇ・・で、村上さんはどうなの?」


億です。

俺は思わずそう答えそうになった。

しかし、おばさんを敵にしてはいけない。

それに金の匂いもさせてはいけない。

だが、このムカつくおばさんには、二度と話しかけてもらいたくもない。

一瞬でそれらを頭で整理し、回答する。

「えっと、ドラッグストアでいたときの3倍くらいですかね」

俺の回答におばさんの目が丸くなっていた。

少しが空いておばさんの口が開く。

「そ、そうなんだ。 よかった・・ですね。 わ、私も冒険者登録をしようと思ってきたのよ。 そんなに稼げるのなら昼は冒険者で夜にドラッグストア・・最高ね」

おばさんは1人ブツブツと言いながら、俺に挨拶もせずに受付へとトコトコ歩いていく。


おばさんの鑑定。

レベル2。

俺はおばさんの背中を見つつ、両手を合わせて合掌する。


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