第171話 俺の立ち位置っていったい?


「アハハ・・面白いものを見つけたな、アマテラス」

「イコルよ、おもちゃではないぞ。 こやつは、新しいタイプのひな型1号じゃな」

「うむ、我も先程見させてもらった。 不思議なことに邪心がないぞ。 これも新しい人族のたまものか?」

「いや、それはこやつの特性と思うぞ。 だからこそドラコニアンに面会させたのじゃ」

「なるほどな・・これからが楽しみだな」

「何が楽しみなものか。 お主もわかっておろう。 レプティリアンとの生存競争が始まる」

イコルが妙に納得したような表情をしうなずく。

「やはりか・・奴等とは理解し合えぬからな。 それに魔族の動きもあるようだぞ」

「本当か? これまた問題がややこしくなるな・・奴等とは対峙したくはない」

「それは我も同感じゃな。 奴らは無害の立ち位置にいるが・・そうじゃ、この男を向かわせると面白いことになるやもしれんぞ」

「バカなことを・・放置でよい。 で、何用じゃ、イコルよ」

アマテラスが面倒臭そうに聞く。

「だから、新しいタイプを見に来ただけだぞ」


「呆れた・・いくらダンジョンが深いところでつながっているとはいえ、移動には結構な力を使うだろう」

「うむ・・それでもその価値はあったというわけだ」

イコルと呼ばれる美女が俺の方を向く。

「ハヤト、だったな。 我はイコルという名だ。 まぁ、貴様らの認識ではヴァンパイアと呼ばれておる」

俺はまばたきを何度かしてイコルを見つめる。

「なんじゃ、我の魅了に当てられたか?」

「はぁ・・イコルよ、お主こやつを誘惑しておるのか?」

「いや、何もしておらぬよ」

アマテラスは両肩をすくめ、やれやれといった仕草をする。


「い、いえ・・その・・俺にはあまりにも濃すぎる内容なので・・その・・混乱しています」

イコルが笑う。

「ハハハ・・何を混乱する? 我はヴァンパイアのイコルで、こやつがハイエルフのアマテラス。 そして我が単にアマテラスに会い来て、お主を見かけたわけじゃ。 難しいことはあるまい」

「・・・」

俺に言葉はない。

確かに、その通りなのだろうが、内容が重すぎるんです。

アマテラス様って、俺の国の神様扱いだぞ。

それに俺が頭すら上がらなかった人。

それがハイエルフでした・・って、簡単に受け入れられるわけがない。

おまけにヴァンパイアって・・どういうこと?


「ふぅ・・イコルよ、こやつはまだ混乱しておるようじゃ。 後でワシから説明しておこう。 それよりもお主が移動してきたのだ。 そこまで緊迫しておるのか?」

「うむ、レプティリアンたちも焦っているのかもしれぬな。 今までが今までだ。 まさか人種族が自分たちに近い階層に来るとは夢にも思わなかったであろうよ」

「確かにな・・我の管理区域でもその兆候はある。 獣人の特区はガーディアンなる人種族が誕生したでな」

「どうでもよい。 我の興味はこの目の前の人にある」

「お主なぁ・・危害を加えるでないぞ」

「わかっておる。 我々は審判者だ。 流れに干渉するつもりはない」

「フフ・・お主は気まぐれだからな。 一応人種も命はあるのだぞ」

「命か・・我はクズには容赦せぬからな」

「相変わらずだな」

イコルとアマテラスがしばらく何やら話合っていた。

・・・

あの俺の状況っていったい?

俺は黙ったまま、その場で動けなかった。



<ダンジョン7階層>


「ハヤトよ、イコルはこのままこの7階層でしばらく滞在するようだ」

アマテラス様が説明してくれた。

どうやら俺は、サイクロプスの一撃を逃れて飛び込んだところ、階層を1つ戻っただけだったようだ。

ダンジョンでは、来るときには好きに階層を選べる(自分た到達した階層)が、一気に地上に帰るには、到達階層をクリアしなければならない。

だからこの7階層からは地上へと飛べるが、クリアしていない8階層では1つ戻されただけだったようだ。


「そ、そうですか・・大丈夫なんですか? ヴァンパイアでしょ?」

俺は素直に質問をする。

「うむ、それは問題あるまい。 ヴァンパイアと言っても、お主たちの認識とは違うぞ。 イコルは相手の生体エネルギーを吸収する。 相手に触れればよいわけだ。 血を吸うわけではない」

「なるほど」

「それよりもハヤトよ、お主が最初に遭遇した人種で正直、安堵あんどした」

「安堵・・ですか?」

「うむ・・あやつは直感的に相手の深意しんいを見抜く。 お主に邪心があったならば、結果が変わっていたかもしれぬ」

「アマテラス様、邪心って・・俺でもいやらしいことは考えたりしますよ」

「・・そういうたぐいのものではない。 人としての性格というか、人間性というか・・とにかくその本質に触れるのだ」

イコルは7階層を散策していた。

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