第147話 分水嶺


<ハヤト>


俺と日置さんは政府専用機の中にいた。


ジョーたちとの挨拶が済むと、特に用もないので空港まで送ってもらった。

日本の領事館の人がいたようだが、特に接触はない。

航空機は離陸し、俺と日置さんの2人でくつろいでいる。


日置さんがずっと何か言いたそうな感じでモジモジとしていた。

俺の顔をチラッとみたかと思うと、下を向いたりと。

しばらくそういう動作を繰り返したかと思うと、パッと顔を上げて俺を見つめる。

「む、村上さん!」

「は、はい!」

「あの・・その・・私とも、携帯の番号を交換してもらってもいいですか?」

「え? あぁ・・携帯の番号ね・・えっと・・」

俺は軽く返事をして電話番号を教える。

すぐに日置さんからワンコールがあり、番号の交換が終わった。

日置さんがにっこりとして携帯を見つめていた。


「日置さん・・俺みたいなおっさんの番号・・何か申し訳ないね」

「い、いえ・・そんなことありません。 だって、大事な仲間と言ってくれたじゃないですか。 仲間の連絡先も知らないのでは、困りますからね」

日置さんが顔を赤らめながらうなずく。

「仲間・・か」

俺はその言葉を口ずさんだ。


確かに、俺に仲間なんていなかったな。

初めてできた仲間かもしれない。

中田のような同期はいるし、職場での友人もいたが、日置さんに言われるような仲間はいなかったと思う。

・・・

いや、いた!

ベスタだ。

『はい、ありがとうございます。 私こそは、ハヤト様の真の仲間で、一心同体です』

すかさずベスタが突っ込んできた。


<日本のダンジョン内>


爬虫類種のコロニーで、ヒロと呼ばれている人? が突っ立っていた。

「どうだ、長老たちは・・」

「うむ・・」

重い返答にヒロは不審がる。

「どうしたんだ?」

「あぁ・・先程、ダンジョンで一つの牧場管理組織がつぶされたそうだ」

「何?」

「フフ・・人間との戦闘によるものだそうだ」

ヒロは驚き、話を聞いている。

「驚くのも無理はない。 ただ、人がそれほど強くなっていたということだ」

「それで、長老たちの回答は?」

ヒロが尋ねる。

「それがな・・現状維持なんだとよ」

「ほ、ほんとか?」

「あぁ・・困ったものだな」

ヒロは少しの間考えていた。


「どうしたんだ?」

「あぁ・・そろそろ俺たちだけのコロニーを作ってもいいのかなと思ってな」

「お前・・結構大胆なことを考えるよな」

ヒロの仲間が驚いたような表情を見せる。


「そうか? 俺たちは別に人を食料としなくてもいい。 別に仲良くしようというわけではないが、どうでもいいんだ。 それに、そんなリスクを背負い込む必要もないだろう」

「うむ・・確かにな・・だが、長老たちが・・なぁ」

「フフ・・人社会でも同じことを言ってたぞ。 だがな、見極めるポイントは今だ。 俺たちだけのコロニーを作って早急に移動しよう」

「ふぅ・・同族で戦いになるかもしれんぞ」

「ハハ・・そんなことにはならないさ」

ヒロの回答に意表を突かれたようだ。

「は? どういうことだ?」

「フフ・・人種族に、長老たちのコロニーを狩らせるのさ」

「え?」

「保存倉庫を見せれば、間違いなく人種族と戦闘になる」

「た、確かにな・・だがなぁ」

「お前、案外いい奴だな」

「は?」

「長老たちに対する気遣いか? 別に長老たちには世話になっていないだろう。 そういうシステムだったんだ、仕方ない。 だが、俺たちは違う。 これを自立というんだ」

「自立ねぇ・・」

ヒロと仲間たちは静かに、そして確実に案件を実行に移していく。


<獣人族>


尻尾を振りながら走ってくる大型犬がいた。

ハッハッハ・・とベロを出しながら息をしている。

『おい、ハジメ、ワシの扱いが雑じゃないのか?』

「ポチ、どうだった?」

ハジメこと村上一はポチの首をなでなでしながらあやしていた。

ポチはお腹を見せて喜んでいる。

『気持ちいいなぁ・・って、違うぞ。 ワシの扱いが・・くぅ・・この感触、たまらん・・って、違うぞ』


ポチはスクッと立ち上がり、ハジメの方を向く。

『出入口付近のところが怪しいらしい』

「そうか・・では、行くか」

ハジメはポチと一緒に歩いていく。


獣人族のガーディアンとして、ハジメは動いていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る