第148話 拝謁?


<アメリカ>


ハヤトたちが帰国し、ジョーは連日、行政の相談役として動き回っていた。


「ふぅ・・まさか僕がこんなに動かないといけないとは」

ジョーは愚痴をこぼす。

「マイヒーロー、仲間のためです。 頑張ってください」

「ハハ・・サラは強いね・・ん?」

サラの後ろに大きな人の影ができていた。


大柄の男はゆっくりと近づいてくる。

サングラスはかけたままだ。

「ジョー・・大変だったようだな」

サラが後ろを振り返る。

「あ、あなたは・・」

「キング、久しぶりだね」

ジョーがキングの前に行く。

二人でしっかりと握手を交わした。


キングの後ろからジェニファーが現れた。

「お久しぶり、ジョー。 それにサラ」

「はい、お久しぶりです」

サラが笑顔で答える。

「で、どうしたんだい?」

「フフ・・ジョー、君と話していると、危機なんてないんじゃないかと思えるね」

キングがつぶやく。

「ありがとう」

「いや、褒めてない。 それよりも、知っていると思うが、ルーマニアで話題になっているミイラになる冒険者の話だ」

キングがゆっくりとソファーに腰を下ろした。

「うむ・・聞いている。 ダンジョンに向かった冒険者が帰ってこない。 調査に行くと干からびた人や串刺しになっている人がいるという話だね」

「そうだ・・知性のある魔物の存在が確認されている」

「うむ・・我々の方でも似たような事件があったばかりだよ」


「補佐官のことだな。 まぁ、ルーマニアの方は政治に干渉はしていないようだが、かなり高レベルな冒険者でも危険なようだ」

「なるほど・・でも、君はその魔物を確認したわけだね」

ジョーが微笑む。


キングはニヤッとしながら前のめりになる。

「あぁ、確認はしたが、戦えなかった。 明らかに格が違う。 何とか逃げることができた程度だ。 他からの冒険者たちはどうなったのかわからない」

「それほどか」

ジョーが驚いた表情を見せた。

キングはジョーと同じくらいのレベルであり、その戦闘能力は高い。

「うむ・・そして、断定はできないが、伝説にあるヴァンパイアなのではないかと思っている」

キングの発言にジョーとサラは顔を見合わせる。


<日本>


段議員のところに川田首相が訪れていた。

「段先生・・」

・・・

・・

川田首相は自分たちの組織が、新しいシステムの中でもどうにか優位な位置にいられないかと、言葉巧みに説得を試みていた。

川田首相の言葉がだんだん少なくなってくる。

段は落ち着いて聞いていた。

こんな次元で物事をみているから迷子になる。

そして、無論、答えは決まっている。

新しいシステムに自分たちを合わせればいい。

それに、もはや国などという大きな入れものは必要ないかもしれない。


「川田君・・君はを許されたことがあるかね?」

段のいきなりの言葉に川田首相の動きが止まる。

「は、拝謁・・天皇陛下? ですか?」

段がニヤッと笑い、ゆっくりと首を振る。

「君も聞いたことはあるだろう。 世界を動かしているという人物たちの話を」

段の言葉を聞いて川田首相がしばらく考えていた。

「ま、まさか・・実在するのですか?」


都市伝説だ。

社会事象を把握し、動かしている機関があるという。

種族に関係なく、その時代の力によって、どこの地域を発展させるか滅亡させるか。

戦争を起こすか止めさせるか。

時間をかけて人のシステムを調整している組織があるという話があった。


「段先生・・あなたは拝謁をされたことがあるのですか?」

川田首相は額に汗をかいていた。

「川田君、この新しい流れは止められんよ。 変わらなければならないのは、個人の方だ。 私たちはその邪魔をするべきではない」

段議員の言葉に、今まで話したことが全て無駄だったことを川田首相は悟る。


川田も政治家だ。

それも重要な職にいる。

そんな人物が知る情報がある。

人種族が急速に増え、地表世界は騒がしくなっている。

隕石などの外的な刺激も計算の一部だという話だ。

そういった視点で世界を俯瞰する組織。

川田が適当に聞き流していた情報。


「段先生・・どうされるおつもりですか?」

川田は恐る恐る言葉を出した。

「川田君、どうもせんよ。 我々はこのまま行く、それだけだよ」

段の言葉を聞き、川田は返事ができなかった。

しばらく呆然としていたかと思うと、スッと席を立ち、段のところから静かに立ち去った。

川田首相が出て行った部屋で段が1人窓の外を眺めている。


川田君・・ワシも拝謁はしたことはない。 

今までの首相でも許されたものはいないだろう。 

ただ・・その片鱗を垣間見たことはある。

人ならざる者という話も聞く。

ワシも若く、顔を上げることは許されなかったが、その足取りは感じることはできた。

『天照大御神』


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