第146話 番号交換


<旧体制派>


首相官邸と呼ばれている場所だ。

「川田首相、我々も努力はしたのです」

「大黒君、治安維持だけでは困るのだよ」

「そう言われましても、まさかルールを平気で無視する奴がいるとは思ってもみませんでしたから・・」

「川田君、我々のための法作ルールりじゃなかったのかね? 全く・・飼い犬に手をかまれるとはこのことだ」

「うむ・・この国があるのは、我々がルールを作ってきたからだ」

「そうだな。 愚民どもの意見などで左右されることなく、しっかりと金を生む組織が動きやすいようにしてやった。 それを愚民どもが・・」

「まぁまぁ、そうお怒りにならなくても・・問題はこれからどうするかということですよ」

「うむ・・あの段のじいさん、好き勝手やってくれる」

テーブルを囲み、旧体制派の連中の言葉が飛び交っていた。


「川田首相、警察や自衛隊で圧力はかけれんのかね?」

「先生、それではあまりにも・・次につながりません。 それに、あの調査隊の力はご存知のはず。 正直、隊員たちも激減して疲弊しております」

それぞれが勝手な意見を述べていく。

・・・

「わかりました」

川田首相が声を挙げた。

全員の注目を浴びる。

川田首相は少し背筋を伸ばし、うなずく。

「私が直接、段先生とお話ししてきます」

「うむ・・それがいいだろう」

「ま、今のところそれしかないな」

テレビなどで見た顔ぶれが、それぞれうなずいていた。

そして同時につぶやく。

終わったな、と。


<アメリカ、ジョーたち>


ダンジョンから帰還すると、補佐官の報告を大統領にする。

大統領はしばらく放心状態だったが、副大統領に支えらえて少し休憩するそうだ。

ジョーたちが報告をしている間、俺と日置さん、マリアは応接室で待機していた。

部屋に入ってから、マリアがずっと俺を見つめている。

それに、日置さんが妙にソワソワしていた。


俺も飲み物を飲み、しばらく我慢していたが、マリアに話しかける。

「マ、マリアさん・・俺に何か妙なところでもあるのかな?」

俺にはこの言葉以外に思い浮かばなかった。

「ムラカミ・・あなたって、いったいどういう人物なのかと思ってね」

「へ?」

「あれほどの魔物を討伐したのに、自分の功績を全く欲しがらない。 私たちの文化圏なら考えられないわ。 それが日本人の文化と言われれば、そうなのだろうと思うけど・・」

俺はマリアの言葉を聞いている。

「まぁ、妙な詮索はお互いにするべきではないと思うわ。 で、ムラカミはこれからどうするつもりなの?」

「どうするって・・目的のダンジョンの件も片付いたし、そのまま帰国かな」

「そう・・私と同じね。 あ、そうだ・・ムラカミ、携帯の電話番号を交換してくれない?」

マリアが軽く言う。

「あぁ・・別にいいけど・・」

俺は携帯を取り出して、マリアと番号を交換した。


「これで、何かあった時には連絡取れるわね」

「ハハ・・そうだね」

マリアが真剣な顔になり、俺に握手を求めてきた。

「ムラカミ・・これから世界はどうなるのかわからないけど、お互いに人としてよろしくお願いするわ」

俺もマリアの手を握り返す。

コンコン・・

ドアをノックする音が聞こえた。


ドアが開き、ジョーとサラが入ってきた。

報告も終わり、取りあえず仕事は終わったという。

ジョーも自分たちの居住地に帰るそうだ。

俺たちも空港まで政府の車が送ってくれるらしい。

マリアも帰国になるようだ。


「ミスタームラカミ、よい勉強になったよ。 ありがとう。 君とはまたどこかで会えるような気がするよ」

ジョーが片手を出してきた。

俺もしっかりと手を握り返す。

「こちらこそ、ありがとうジョー。 アメリカのヒーローに会えて、想像通りの人で満足しました」

俺もカッコつけて話してみた。

ジョーが笑顔で俺の肩を叩く。

「ハハハ・・こちらこそだ。 僕もまだまだ強くなるよ。 これからの世界は今までの世界と違うだろう。 よろしく頼むよ」

ジョーはそう言って俺たちと携帯の番号を交換した。


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