第146話 番号交換
<旧体制派>
首相官邸と呼ばれている場所だ。
「川田首相、我々も努力はしたのです」
「大黒君、治安維持だけでは困るのだよ」
「そう言われましても、まさかルールを平気で無視する奴がいるとは思ってもみませんでしたから・・」
「川田君、我々のための
「うむ・・この国があるのは、我々がルールを作ってきたからだ」
「そうだな。 愚民どもの意見などで左右されることなく、しっかりと金を生む組織が動きやすいようにしてやった。 それを愚民どもが・・」
「まぁまぁ、そうお怒りにならなくても・・問題はこれからどうするかということですよ」
「うむ・・あの段のじいさん、好き勝手やってくれる」
テーブルを囲み、旧体制派の連中の言葉が飛び交っていた。
「川田首相、警察や自衛隊で圧力はかけれんのかね?」
「先生、それではあまりにも・・次につながりません。 それに、あの調査隊の力はご存知のはず。 正直、隊員たちも激減して疲弊しております」
それぞれが勝手な意見を述べていく。
・・・
「わかりました」
川田首相が声を挙げた。
全員の注目を浴びる。
川田首相は少し背筋を伸ばし、うなずく。
「私が直接、段先生とお話ししてきます」
「うむ・・それがいいだろう」
「ま、今のところそれしかないな」
テレビなどで見た顔ぶれが、それぞれうなずいていた。
そして同時につぶやく。
終わったな、と。
◇
<アメリカ、ジョーたち>
ダンジョンから帰還すると、補佐官の報告を大統領にする。
大統領はしばらく放心状態だったが、副大統領に支えらえて少し休憩するそうだ。
ジョーたちが報告をしている間、俺と日置さん、マリアは応接室で待機していた。
部屋に入ってから、マリアがずっと俺を見つめている。
それに、日置さんが妙にソワソワしていた。
俺も飲み物を飲み、しばらく我慢していたが、マリアに話しかける。
「マ、マリアさん・・俺に何か妙なところでもあるのかな?」
俺にはこの言葉以外に思い浮かばなかった。
「ムラカミ・・あなたって、いったいどういう人物なのかと思ってね」
「へ?」
「あれほどの魔物を討伐したのに、自分の功績を全く欲しがらない。 私たちの文化圏なら考えられないわ。 それが日本人の文化と言われれば、そうなのだろうと思うけど・・」
俺はマリアの言葉を聞いている。
「まぁ、妙な詮索はお互いにするべきではないと思うわ。 で、ムラカミはこれからどうするつもりなの?」
「どうするって・・目的のダンジョンの件も片付いたし、そのまま帰国かな」
「そう・・私と同じね。 あ、そうだ・・ムラカミ、携帯の電話番号を交換してくれない?」
マリアが軽く言う。
「あぁ・・別にいいけど・・」
俺は携帯を取り出して、マリアと番号を交換した。
「これで、何かあった時には連絡取れるわね」
「ハハ・・そうだね」
マリアが真剣な顔になり、俺に握手を求めてきた。
「ムラカミ・・これから世界はどうなるのかわからないけど、お互いに人としてよろしくお願いするわ」
俺もマリアの手を握り返す。
コンコン・・
ドアをノックする音が聞こえた。
ドアが開き、ジョーとサラが入ってきた。
報告も終わり、取りあえず仕事は終わったという。
ジョーも自分たちの居住地に帰るそうだ。
俺たちも空港まで政府の車が送ってくれるらしい。
マリアも帰国になるようだ。
「ミスタームラカミ、よい勉強になったよ。 ありがとう。 君とはまたどこかで会えるような気がするよ」
ジョーが片手を出してきた。
俺もしっかりと手を握り返す。
「こちらこそ、ありがとうジョー。 アメリカのヒーローに会えて、想像通りの人で満足しました」
俺もカッコつけて話してみた。
ジョーが笑顔で俺の肩を叩く。
「ハハハ・・こちらこそだ。 僕もまだまだ強くなるよ。 これからの世界は今までの世界と違うだろう。 よろしく頼むよ」
ジョーはそう言って俺たちと携帯の番号を交換した。
◇
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