第145話 報告


<内閣調査隊>


素材班、攻略組など、集まれる人が集まっていただろうか。

壇上に段議員たち、組織の幹部が座っていた。

調査隊の発足から現在までの経緯を説明しながら、現状を討論し合っていた。

既に、遷都の話で旧体制派とは軋轢あつれきができている。

それに国民の大半は段議員たちのギルドを中心としたやり方に乗り気のようだった。

・・・

・・

「すでに何度か調査を行ったが、ほとんどが新しいシステムに同意だ。 問題は旧体制派の連中だが、戦うわけにもいくまい」

「君はすぐに力で解決しようとするね」

「どうせそうなる」

「そういえば、君はどう思うかね?」

「私ですか・・」

「君は警察にいたんだったな・・えっと・・前田君だっけ?」

「はい・・警察組織も大したことないですよ。 脂ぎった豚がのさばってましたね」

「君・・君は、敬遠される性格だね」

「どうも・・」

・・・

・・

いろんな場所で、それぞれが自由に会話をしていた。

かれこれ30分くらい経過しただろうか。

司会が様子を見ながら声を出す。

「段議員、よろしくお願いします」


段議員が壇上に上がる。

「諸君・・」

一言発して、反応を待つ。

すぐに静かになった。


段議員はうなずくと話し出す。

「もうわかっていると思うが、国民の7割以上が新しいシステムに賛同している。 そしてギルドネットワークを利用して新しい社会に期待している。 諸外国も含めて、どうも国という大きな入れものは必要なくなっているのかもしれない。 ただ、集合体としての組織は人社会には必要だろうと思う。 その集合体自体の自治に任せるのか、それらを統合してルールを作るのかは、まだ決まっていないが、試行錯誤しながら徐々に形になっていくだろう。 旧体制派もその集合体になり、新しいシステムに参加するのかしないのかはわからないが、流れとしては加速度的に進んでいるよ。 諸外国も含めていろんな集団が出来上がりつつある。 現に中国という国は、既に内部で派閥ごとに分かれたそうだ」

会場がざわめく。

「えへん・・我々は・・私は、日本人という民族が幸せに暮らせればそれでいいと思っている。 他がどうでもいいというのではない。 今までの歴史で得た文化を維持し、この民族性を保てればよいのではないかな? これは年寄りの独りよがりかもしれぬが、とにかく君たち調査隊員は、新しいシステムのかなめとなる。 これからよろしくお願いする」

段議員が頭を下げ、また椅子に戻っていった。


入れ変わって一人の女性が壇上に立つ。

「段先生、ありがとうございます。 調査隊、統括部長の本郷です」

会場がザワザワとする。

「新しいシステムは既に稼働しています。 ギルドネットワークが世界の基準になりつつあります。 各地域においてルールは多少違いますが、大まかなルール作りはほぼ完成しました。 そしてギルドからの報告では、ダンジョンで人ならざるものの存在が欧州で確認されたと報告もありました」

会場にいた連中は、魔物か? という感じでそれぞれがつぶやいていた。


「えへん・・人ならざるもの・・どうも魔物と違うようなのです。 我々と同じような知性を持っていると報告されております。 未確認速報なので詳細はわかりませんが、遭遇したものの報告によると、まるで精気を吸い取られたとしか思えないような姿になっていたそうです・・ミイラのように。 なぜ、こんな話をするのかというと、我々の国でも遭遇するかもしれないということです」

本郷が一息入れて話し出す。

「そう、お察しの通り、ダンジョンを進んで行くと遭遇するらしいのです。 ですから、皆さんにも気をつけておいてほしいのと、旧体制派の動きにも注意してください。 調査隊員は狙われやすいですからね」

本郷はそれだけ言うと一礼をして椅子に戻る。


「ありがとうございます。 さて、皆さん、何かご質問はございませんか?」

司会が会場を見渡していた。

・・・

少しの間、沈黙が続く。

「では、今回の報告会はこれにて終了といたします。 解散!」


会場から人がいなくなる。

壇上の段議員のところへ人が近づいて行った。

・・・

「それは本当かね・・」

段議員が難しい顔をする。

「はい」

「もはや・・言葉では解決できないのか」

段議員はつぶやくと目を閉じた。


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