第144話 帰還


2匹が糸の切れた人形のように崩れ落ちる。

残りはダグラスだけだ。

ダグラスは焦っているようだが、呼吸を整えて話しかけてくる。

「ふぅ・・日本のコマンダーよ」

「・・・」

「どうやら私の負けのようだ。 まさかこのシステムが人をここまで強くしていたとはな」

ダグラスが勝手にしゃべっている。

「どうかね、ここら辺で一区切りといかないかね?」


俺は無言でダグラスを見ていた。

そのことがダグラスに少し余裕を持たせたようだ。

「君は強い・・が、私が連絡をすれば仲間がやってくるだろう。 そうすればいかに君でも対処に困ると思うが・・」

ダグラスがニヤッと笑いながら、右手を少し動かした時だ。

俺は遠慮なくダグラスの胸に右掌打を叩き込んだ。

ドゴン!!


ダグラスの胸の辺りに拳大の穴が開いていた。

ダグラスは信じられないという顔をして、自分の身体に開いた穴を見ようと顔を下に向ける。

ドサ・・。

そのまま地面に倒れた。

「ベスタさん、爬虫類ってバカなのかな?」

『いえ、ハヤト様が強かったのです』

「ハハ・・それよりもこのダグラスってやつだけど、自分は助かると思ったのかな?」

『ハヤト様の攻撃が一区切りついたので、少し安心したのかもしれません』

「なるほど。 でも、仲間がまだまだいるんだよな。 それらが来る前に撤退したいね」

『はい・・妙な気配は…ありませんね』

ベスタが周囲を警戒してくれていた。

さてと・・この後の処理だが。


俺はゆっくりと日置さんたちの方を見る。

ジョーも復活していた。

俺が近づいてくと微妙な笑顔で迎えてくれる。


ジョーが最初に話しかけてきた。

「ミスタームラカミ、まずはお礼を言わせてくれ。 ありがとう」

ジョーが握手を求めてきた。

俺もゆっくりと手を出し握手をする。

「君は、僕と同じレベルと言ったが、違うだろう?」

ジョーがニヤッとする。

俺は返答に一瞬困ってしまった。

その反応を見てジョーがうなずく。

「フフ・・人には知られたくないこともある。 とにかく我々は無事に生き残ったのだ。 それがすべてさ」

ジョーは何も追及してこなかった。

いい奴だな、ジョー。

サラがジョーの横で頭を下げていた。

「ミスタームラカミ、本当にありがとう。 あなたがいなければジョーはここにいなかったかもしれません」

「ムラカミ・・私からも感謝を言わせて。 ありがとう」

「いや、日置さんやマリアの支援のおかげだよ」

俺の返答にマリアが微笑んでいた。


俺は少しドキッとした。

エルフか! と思わせる雰囲気だ。

可愛いというより、美人だよな。

ん?

マリアの後ろで日置さんが俺を睨んでるような気がするが、気のせいか?


俺はダグラスの死体へと近づいていく。

ジョーが俺のそばに来た。

「ミスタームラカミ、君は何か証拠を持って行こうと考えていないかね?」

俺はジョーの言葉にうなずく。

「僕もそう思うが、それはやめた方がいい」

ジョーの言葉に俺たち全員がジョーの方を向く。

「フフ・・先程ダグラスが言っただろう・・仲間がいると。 地上の仲間たちを危険にさらしたくはない」

俺はジョーの言葉に納得。

確かに、爬虫類たちの存在が明らかになれば、完全な衝突になるかもしれない。

それに、個々人の力では到底、爬虫類種に及ぶべくもない。

だからこそ、このまま放置が賢明だろう。

ジョーも悔しいに違いない。


「さぁ、地上へ帰ろう」

ジョーが笑顔で言う。


<7階層>


ジョーたちが引き上げてしばらくした時。

空中に浮いている物体が現れた。

音もなくダグラスたちの近くに着陸。

中から3匹ほどの爬虫類が出てきた。

ダグラスたちの死体を観察。


「フム・・こいつらと力の差は歴然か」

「相手は人種族らしいが、脅威だな」

「だが、長老たちは放置でよいという」

「あぁ、ドラコニアンなどに目をつけられれば我が種族が滅ぶ」

「そうだな。 こいつらはやり過ぎたのだ」

「うむ、牧場はこいつらが管理しているところだけではない」

「あぁ、それに良い転換点かもしれん」

「うむ、長老たちも言っていたな。 危険を冒してまで食するものでもあるまい」

「まぁな・・人工肉でも十分賄える」

爬虫類たちはダグラスの死体を回収しながら話していた。

「さて、引き上げるか」

「うむ、取りこぼしは・・ないな」


空中に浮いた物体は、音もなく去っていく。

ダグラスたちの痕跡はきれいに消えていた。


<ジョーたち>


サラがジョーの傍にピタッとくっついている。

「マイヒーロー、報告はどうします?」

「うむ・・補佐官は魔物に倒されたということになるかな」

「なるほど・・」

・・・

・・

ジョーとサラがいろいろと話していた。

結構、重要な案件だと思うが、なんか軽いな。

マリアは何も言わず、ジョーの後を歩いている。


日置さんも黙ったまま俺の後をついてくる。

俺もチラチラと日置さんを確認するが、調子は悪くないよな。

何か話さなきゃと、妙に貧乏性な気持ちになる。

「へ、日置さん・・どこか調子悪いのかな?」

俺は取りあえず聞いてみた。

「い、いえ・・どこも調子は悪くないです」

「そ、それは良かった」

・・・

会話が終わってしまった。


あ、思い出した。

「日置さん、そういえば・・ギルドマスターに日置さんの親戚っていう人がいたのだが・・」

俺がそう話を振ると、日置さんがパッと俺の顔を見る。

「ゆかりさん!」

「ご、ごめん・・俺、名前を聞いてないんだ」

「い、いえ・・こちらこそいきなり名前を言ってしまって、すみません」

「ゆかりさんっていうんだ、あのギルドマスター」

「はい、ほとんど私の姉のような人です」

「ふ~ん」

・・・

・・

それからしばらくは日置さんが明るくギルドマスターの話をしてくれた。

いい人そうだな。

マリアが微笑みながら俺たちを見ていた。


地上へ到着。

車からドライバーが出てきた。

ジョーたちが事情を説明する。

・・・

・・

俺たちはそれぞれ車に分乗し、戻っていった。


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