第142話 強者の余裕? 油断?


俺は日置さんを連れて、サラの傍に来ていた。

マリアもいる。

サラが微笑みながら話す。

「あれが、マイヒーローのスキルの一つです。 私も詳しくはわからないのですが、相手を消滅させる技らしいのです」


「ベスタさん、ジョーって最強じゃねぇかよ」

『ハヤト様、あれは対象者を分子分解させているように見えますね』

「分子分解? は?」

『え、えへん。 とにかくそういったスキルだと思います・・が、代償もあるかと思われます』

「代償?」

『はい、自分のイメージをスキルに乗せて反映させているのです。 それが強大であればあるほど・・例えばMPが大量に消費されるとか、使用回数が制限されるとか、です』

「なるほど・・というより、そんな代償でいいのか? 俺はまた命が削られるのかと思ったよ」

『いえ、まさに命が削られます。 使用回数が制限されれば、スキルによる恩恵は消失します』

!!

「なるほど!」

俺は背中が寒くなった。

確かに、こんな便利な世界になった。

身体能力も超人だ。

そしてスキルがより自分を強くする。

その恩恵がなくなるとなると、吹雪の中に裸で放り出されるようなものだ。

となると・・ジョーは?

俺は急いでジョーを見つめる。


ジョーは、半身を消失させた爬虫類にロングソードを突き刺していた。

左腕は金色に光っている。

なるほど、大丈夫なようだな。

!!

俺がそう思った時だ。

他の爬虫類がジョーと距離を取る。

そして、何やら銃のようなものを構えて発射。

赤いビームがジョーの身体に刺さっていた。

「マイヒーロー!!」

サラが大声で叫び、駆け出していた。

「く、来るなぁ!!」

ジョーが叫び、サラが立ち止まる。

「こ、来ないでくれ・・それに・・マリア、ミスタームラカミ、ヘキ・・可能ならば、サラを連れて退却・・して・・くれ」

ジョーは地面に膝をつき、四つん這いになる。

すると、光る左腕も消えていた。


「このエサどもが・・」

「くそ。 ダグラス・・」

「おいおい、やられちゃったよ。 ま、油断したのが悪いんだけどね」

爬虫類系の連中は妙に落ち着いている。

「ベスタさん、俺・・ジョーを助けるよ」

『楽勝です』

ベスタの回答に俺はゆっくりと歩きだそうとした。

「ん?」

俺の服を掴んでいる日置さんがいた。

黙って下を向いている。

「日置さん、大丈夫だから。 ジョーを連れて戻ってくるよ」

日置さんがコクリとうなずき、掴んでいた服を放す。

俺はゆっくりと歩きだす。

「ミスタームラカミ・・」

サラが後ろから声をかける。

「ジョーを・・マイヒーローをお願いします。 今ならまだ回復できます」

「私も援護するわ」

マリアの声も聞こえる。


俺は振り返りもせず、軽くうなずくとダグラスの方へ向かって歩いていく。

俺が動くと、ダグラスたちも気づいたのだろう。

俺の方を3匹が見つめる。

そして、明らかに嘲笑しているような雰囲気がある。

「おい、あのエサは何を考えているんだ?」

「このオスを置いて逃げれば、もしかしたら退却できたかもしれないのに」

「あはは・・退却って・・させないでしょ。 俺たちの誰かが先回りして、鬼ごっこは終わりだよ」

・・・

俺は歩きながら両手の手袋を確認し、身体の状態もチェックする。


問題なし。

今まで力を抑えていたからな。

相手のレベルは35。

ま、何とかなるだろう。

ジョーのところまで来た。


爬虫類系の連中は余裕があるのだろう。

俺がジョーのところに来るまで何かをする気配はない。

前方を警戒しつつ、ジョーの様子を探る。

・・・

気絶しているようだ。

俺はそのジョーを見ながら、少し可笑しくなった。

「フフフ・・よく気絶をする人だ」


「おい、あのエサ・・笑ってるぞ」

「人種族というのは、恐怖が極まると笑う者もいるぞ」

「そうなのか?」

「お前はすぐに殺すだろう」

「そういうお前は痛めつけるよな。 味が落ちるぞ」

「フン」

爬虫類系の雑音をよそに、ジョーを抱える。

「おい人間、そいつはもうだめだ。 えっと・・今なら見逃してやるぞ」

「嘘つけ」

「いや、確か・・人間の連中がこんなやり取りをしていたぞ、見逃さないからこそ、そういう言葉を出すはずだ」

「なるほど」

爬虫類系が勝手な会話をしているが、どうやら俺に手出しするような感じはない。

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