第139話 第7階層


日置さんの機嫌も直り、俺たちはまたダンジョンに向けて出発をする。

補佐官を乗せた車、俺と日置さんを乗せた車、ジョーたちを乗せた車、3台で移動。


ダンジョンに到着し、俺たちは入り口の前にいた。

「ふむ・・ここが現場か」

補佐官がつぶやく。

3名のSPを従えてダンジョンへ入っていく。

ジョーとサラは補佐官の前を歩く。

マリアと日置さんが補佐官の両脇を歩く。

俺は補佐官たちの後方だ。

ダンジョンにすぐに戻ってきたので、魔物たちはいなかった。

スムーズに6階層まで到達・・時間はかかったが。


ケンタウルスの死体は消えていた。

だが、金色の槍が地面に刺さっている。

その槍に補佐官ことダグラスが近づいていく。

槍にそっと触れると、軽く引き抜いた。

俺は驚いた。

あの魔物の武器、結構な代物だと思ったからだ。

おそらくケンタウルスと同じくらいの強さがなければ、あれほど簡単に槍を抜けるはずはない。

俺は急いで神眼で政務官を見る。

・・・

レベル35か・・凄いな。

普通のおっさんに見えたのだが、よく鍛えているというわけか。

神眼といえども、相手のレベルがわかるに過ぎない。

スキルレベルがもっと上がれば、いろいろと他のこともわかるかもしれないが。


「ベスタさん、あのおっさん、かなりレベルが高いですよ」

『はい、ハヤト様の敵ではありませんが・・』

「ベスタさん、言っておくけど、俺、戦闘狂じゃないからね」

『敵ではありませんが、人でもありませんね』

「え?」

俺はベスタの回答に驚く。

「ベスタさん、人ではないって、どういうこと?」

『そのままの通りです。 おそらく爬虫類種だと思われます』

「は? そんな奴がアメリカの大統領補佐官なのか? どういうこと?」

俺が少し混乱していると、補佐官が槍をマッチョのSPに渡していた。

ドン!

SPが槍を持ったまま地面に突っ伏している。

補佐官がニヤッと笑っていた。

ゆっくりと槍を拾い上げ、政務官が片手で担ぐ。


「ここでダンが亡くなったのかな?」

ダグラスがジョーに尋ねていた。

ジョーはマリアを見る。

「わかりません・・私たちは逃げるのに必死で・・」

ダグラスはうなずくと、槍を地面に刺し、片膝をついて軽く祈りを捧げていた。

俺は注意深く見ていたが、人と何ら変わりはない。

ダグラスは立ち上がり、槍をジョーに手渡す。

ジョーの顔が少し引きつっていた。

「補佐官殿・・この槍は、かなり重いですね」

「うむ・・私もそう思う。 よくこれを持つ魔物を討伐できたものだ。 見事だな」

ダグラスが笑うでもなく淡々と語る。

ダグラスが次の階層への入り口へと、向かっていく。

俺たちも態勢を整えて歩いていく。


7階層に到着。

草原といった表現が近いだろうか。

アフリカのサバンナのような開放的な空間が広がっていた。

補佐官が草原をゆっくりと見渡し、一歩を踏み出した。

「ほ、補佐官殿、お待ちください。 この階層は未到達階層です。 慎重に動かねば・・」

ジョーが慌てて声をかける。

「あ、あぁ、すまない、ジョー。 気を付けるよ。 だが・・なんだろうね、不思議と安全な気がして、ついつい足が勝手に動いてしまったんだ」

補佐官は淡々と話す。

やけに落ち着いている感じだ。


ジョーが改めてフォーメーションを組む。

ジョーが先頭に立ち、草原をゆっくりと歩いていく。

「マイヒーロー、このエリアですが、まるで周りから見られているような感じがします」

サラの額に汗がにじんでいた。

「うむ・・僕も妙なプレッシャーを感じるんだが、補佐官は平気な感じだね」

「はい」

ジョーがチラッと補佐官を見た時だ。

前方から強烈なプレッシャーが迫って来ていた。

マリアと日置さんが前方に集中する。

「何か、前方から来るぞ!」

ジョーが叫ぶ。


「あれは・・馬?」

マリアがホークアイで接近してくる魔物を捉えていた。

当然、日置さんも捉えている。

「ジョー、迎撃するわよ」

「あぁ、頼む」

マリアが許可を得ると、接近してくる馬を狙った。


ドン!

近づくにしたがって、その魔物のフォルムがわかってくる。

馬のような黒い魔物は、直線で向かってきていたが、一瞬で軌道をずらす。

元の軌跡上に地面から土柱が立つ。

マリアの銃弾だ。

軌道をずらしながら、速度を落とさずに向かってきていた。

直後、その魔物に向かって白い矢が空中から降り注ぐ。

日置さんがすでに放っていた矢だ。

魔物は接近する速度を落とすことなく矢を回避しようとする。

3本が魔物の背中にヒット。

魔物の速度が落ちる気配はない。

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