第136話 俺の勘違い


とりあえず、みんなのところに行かなきゃな。

俺はこの重い雰囲気の中、歩いていく。

・・・

みんなの視線は俺に集中している。

誰も言葉がなかなか出てこないようだ・・どうしよう。

「え、えっと・・その・・ジョー・・かな? レベルアップするために頑張っていたのなら、その・・すみません。 横取りしたみたいになって・・何ていうのか・・思わず身体が動いていたので・・すみません」

俺は頭を掻きながら謝罪してみた。


サラとマリアがキョトンとした顔をしている。

ジョーも意識を回復したようだ。

ゆっくりと身体を起こしてサラを見る。

「サラ・・ミスタームラカミは、何故謝っているのかね?」

サラが両肩をすくめる。

「さぁ、私にもわかりません」

マリアも同じ反応だ。

「あ、あの・・村上さんは、あの魔物がジョーの獲物だったので、横取りしたんじゃないかって思っているようです」

日置さんが声を挙げてくれた。


ジョーたちは日置さんを見て、お互いの顔を見合わせる。

「獲物を横取り? 何の話をしているんだ? 僕はミスタームラカミに助けてもらったことに感謝したいんだが・・それ以外に何かあるのかね?」

ジョーがまたもサラとマリアを見る。

二人とも両肩をすくめて同じ反応だ。


「あの・・ジョーのレベルアップのために、ケンタウルスと戦ったのではないのですか?」

「・・ププ・・アッハハハハ・・レベルアップだって? まさか・・あの魔物相手に必死だったよ」

ジョーがカラカラと笑っている。

俺は少しホッとした。

レベルアップができそうな魔物を横取りしたなんて、ゲームとかならかなり面倒になる時がある。

しかも今の世界では、自分の生存に関わる。

だが、そんな考えは微塵もないようだった。

俺がそんな一息をついた時だ。

ジョーが真剣な顔になって俺に聞いてきた。


「ミスタームラカミ、君はケンタウルスを簡単に倒していたように見えたが、何かのスキルかね?」

「え、えぇ・・まぁ、そんなところです」

「ふむ・・僕と同じレベルだと聞いていたが、スキルでこれほど違うんだな」

ジョーが考え込んでいる。


ジョーォォォ!

すまない、実は俺レベル37なんだ。

レベル差なんだよ。

スキルじゃないんだ。

心の声です、はい。


マリアと目が合った。

マリアが俺を見つめたまま、口を開く。

「ムラカミ、あなたは凄い人ね。 まさかあの魔物を倒すなんて・・私ももっとトレーニングを積み重ねないといけないわ」

マリアはもっといろいろと聞きたそうな感じだったが、口をギュッと閉じた。


「とにかく、我々はケンタウルスを倒したんだ。 一度地上へ戻り、報告をしよう」

ジョーの言葉に皆素直に従う。

俺的にはこの階層を探索して、進んでみたかったが仕方ない。

ベスタさんに聞いたところでは、10階層くらいのダンジョンらしい。

俺たちは軽い足取りで地上へと戻っていく。


<ダグラス>


ダグラスは黒い上質の皮の椅子に座り、落ち着いて飲み物を飲んでいた。

「ふぅ・・この飲み物は美味しいな。 ふむ、日本の飲み物か・・クックック・・今頃、ジョーたちの処理が終わった頃だろう。 こんな世界になり、人間も強くなってきた。 だが、どんなに強くなってもドラコニアンなどにかなうはずもない。 変に刺激されては、が豊かに発展しない。 それに、ケンタウルスのような幻獣種は強い。 この人間社会では神話にまでなっているしな」

ダグラスは上機嫌だった。

それによく勉強しているようだ。

ドアをノックする音が聞こえる。

コンコン・・。


「どうぞ」

ダグラスは優しく声をかけた。

ドアが開き、ショートカットの髪の女性が入ってくる。

「補佐官、ご報告があります」

ダグラスはゆっくりとうなずく。

そろそろジョーたちの情報が入ることだと思っていた。

「ダンジョンに向かったジョーたちですが、ただいま全員無事に帰還いたしました」

・・・

ダグラスは耳を疑った。

「え?」

「は? 補佐官・・どうかされましたか?」

「い、いや・・その・・ジョーたちが帰ってきたと聞こえたのだが・・」

「はい、全員が無事に帰還いたしました」

「全員が・・か? 負傷者はいないのか?」

「は、はい・・疲れてはいるようですが、負傷者はいないようです」

「そ、そうか・・ありがとう」

報告を終えると、ショートカットの女の人は退出する。


ダグラスは混乱していた。

どういうことだ?

ジョーのレベルなどでは確実に幻獣種に勝てるはずなどない。

それに全員が帰還したと聞いた。

何が起こったのだ?

・・・

なるほど!

戦闘をせずに帰還したわけか。

私としたことが、うっかりしていた。

よし、ジョーたちに一応労いの言葉をかけてやるか。

そして、すぐに再挑戦させねばなるまい。


ダグラスは席を立つと、執務室を後にする。


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