第135話 先に言ってくれよ


「えっと、ケンタウルスだったっけ? 何言ってるの?」

俺は一応反応する。

「貴様、何をしたと聞いている」

「どういうこと?」

「我の足に触れたときに、何をした?」

ますます俺にはわからない。

何をしたって、打撃ですけど・・それをまさか説明しろと?

この馬モドキ・・打撃を知らないのかな?

あ、確かに四つ足だし・・組み打ちとか知らないのかもしれない。

俺は真剣に考えていた。


ケンタウルスが何か震えているようだ。

「き、貴様ぁ! 下等種が我に触れたのだ。 しかも何かを仕掛けている。 どういうことだ!」

俺はいまいち理解に苦しむ。

「ケンタウルスだったか・・打撃を知らないのか? お前の前足に俺の掌打を叩き込んだんだよ」

俺は丁寧に説明してしまった。

ケンタウルスはますます震えが大きくなった。

「・・バ・・そんな・・バ・・」

ケンタウルスが何かつぶやいている。

「バ?」

俺はその言葉を拾う。


「そんなバカなことがあるかぁ!!」

ドッキーン!!

ケンタウルスの大声に驚いてしまった。

「貴様ら下等種の打撃ごときが、我に通じるはずがなかろう。 正直に答えろ、何をした?」

!!

俺はそこで理解した。

なるほど、この魔物は人間の攻撃など効くはずがないと思っているようだ。

「お前、レベル差を知らないのか?」

「・・・」

ケンタウルスが驚いたような顔で俺を見る。

だから、その顔・・怖いから俺を見つめるな!


「レベル差・・だと? 何を言っている? あぁ・・この新しいシステムのことか・・だからと言って人間ごときが・・いや、我の右腕をそこの男が奪ったのだったな。 なるほど・・」

ケンタウルスの雰囲気が明らかに変わった。

「ベスタさん・・この魔物って、ヤバい奴なのかな?」

『はい、妙にプライドが高い種族のようですね』

「プライドねぇ・・バカだろ?」

俺も迎撃準備をする。


ケンタウルスが俺に向かって走ってくる。

その勢いのまま槍を突き出してきた。

先ほどとは全く動きが違う。

ドン!

ドドドド!

初撃を躱すと、槍を更に俺に突き出してくる。

俺が躱す場所の地面がどんどんと穿うがたれていく。

俺のスキル神眼のおかげとレベル差だろう。

脅威ではない。


ガン!

今度は全力でケンタウルスの前足に掌打を放った。

ケンタウルスの動きが止まる。

左前足が折れていた。

「うぐぐ・・まさか・・こんなことが・・」

ケンタウルスは驚いているようだ。

俺はこのタイミングを見逃さない。

やれるときにやる。


ドン、ドドン!

ケンタウルスのもう片方の前足にも打撃を加えた。

ケンタウルスが前のめりに倒れそうになる。

俺は右手に意識を集中する。

俺の右手がジョーのように光を纏う。

そのままケンタウルスの胴体を横なぎに払う。

ズバン!!

そして縦に手刀を振り下ろす。

ドン!!


ケンタウルスの上半身が身体から別れ、肩口から二つに分かれていく。

そのままケンタウルスが地面に倒れた。

ドーン・・。

「グボォ・・ゴボ・・ま・・さか・・この我が・・」

ケンタウルスはそのまま絶命した。


「ベスタさん、こいつ・・いったい何がしたかったのでしょうね?」

『さぁ、それはわかりませんが、今からが大変そうです』

「え?」

俺はベスタの返答を聞きつつ、後ろを振り返った。

・・・

日置さんが突っ立ったまま俺を見つめている。

マリアもサラも動かずに俺を見ていた。

ジョーはサラのそばで寝ているようだ。

・・・

いったい、この雰囲気は何?

俺、何か悪いことしたのかな?

もしかして、この魔物・・ジョーかマリアが倒す予定だったとか。

魔物の横取りをしたってことか?


あ、そういえば、ジョーのレベルって32だったよな?

ケンタウルスがレベル33だったから、レベル上げの邪魔をしてしまったことになるのか?

いや、でも・・ジョーもダメージを負っていたし・・って、サラが回復させて戦いを繰り返す予定だったとか?

先に言ってくれよ。

・・・

・・

俺の頭の中は最速で回転していた。

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