第120話 それぞれの思惑
<ケンタウルス視点>
ゴミに手間取ったせいで逃がしてしまったか・・。
まぁいい。
どうせあの種族はまたやってくる。
その時にきっちりとこの借りを払わせてやる。
我の身体の回復はそれからだ。
まったく腹立たしい・・。
こんなシステムに変更しおって・・だが、管理者には逆らえない。
とはいえ、管理者も我々には手を出せないがな。
ケンタウルスは入り口の方向を少し睨み、クルッと背を向けてダンジョンの奥へと歩いていく。
◇
<アメリカ>
ダンジョンの調査を依頼し、十分な戦力だと自負していた行政府だったが、その戦果は散々たるものだった。
マリアたちの報告を聞き、重い雰囲気が漂っている。
「・・まさか、ダン隊長が・・」
「そのケンタウルスというのは、それほどまでに強いのかね? 部隊には最新鋭の武器を装備させていたはずだが・・」
大統領が悲痛な顔つきで聞いてきた。
マリアは両手の指を合わせて一呼吸する。
「はい・・私たちの想像を超えていたと思います。 私も魔物とも何度も対峙しておりますが、あの魔物はまるで違った感じでした。 お借りした銃で一撃ヒットさせることができましたが、無傷だったようです」
生き残った隊員2人も静かにうなずく。
「大統領・・私の戦略ミスです。 申し訳ありません」
行政官が大統領に謝辞を述べていた。
マリアは
なぜ今そんなことを言わなければいけないのか。
まずは現状を再確認し、隊員たちに労いの言葉と謝罪をするべきだろう。
私は、こんな連中のために呼ばれたのか?
そもそもアメリカとは、国とは何なのか?
・・・
そんなマリアの頭にジョーの姿が浮かんだ。
しばらくすると、大統領が気が付いたのか、マリアたちに丁寧にお礼を言い、ゆっくりと休息を取るように指示を出す。
マリアと生き残りの隊員たちは無傷だが、その心の傷は重く深い。
◇
<ジョー>
みんなと談笑しているジョーの姿があった。
サラも笑顔でうなずいている。
少し離れたところから人が静かに近づいてきた。
サラのところに来て話しかける。
サラの顔から一瞬で笑顔がなくなった。
話しかけた人にサラはお礼を言うと、ジョーのところへ歩いていく。
「ジョー・・」
サラが少し困ったような表情で呼ぶ。
ジョーはみんなとの談話を中断し、サラの方へと近づく。
「みんなすまないね・・また、後で」
「えぇ、また」
「楽しかったわ」
サラの表情を見てジョーはうなずく。
「サラ・・あのダンジョンのことかい?」
「はい・・今、報告が入りました・・」
サラは聞いた話をジョーに伝えた。
高レベルのダンを筆頭に、ダンジョンを攻略。
結果は惨敗。
生き残ったのは欧州から来たマリアと隊員2名のみだと。
ジョーはサラの話を聞きながら、震える自分を抑えていた。
「・・こんな・・こんなくだらないことのためにダンたちが犠牲になったのか。 国というのは、いつになったら人の命の重さがわかるのだろう。 いや、もうそんな段階ではないのかもしれない・・」
ジョーは目を閉じ、震える身体を押さえつける。
「ふぅ・・サラ、僕たちは間違えていたのだろうか? あのダンジョンは攻略しなければいけないのだろうか?」
ジョーは静かに言葉を出す。
「マイヒーロー、それは違います。 私たちは何度も警告を発信しました。 それにあの魔物はダンジョンから出てくる気配はありません。 我々とは住む環境が違うのです。 悔しいですが、あの環境へ我々が近づかなければ命の危険は避けられると思います。 それを政府が無視したのです」
「サラ・・ありがとう。 だが、キースもいなくなってしまった・・あの行政で大丈夫なのだろうか?」
サラとジョーは真剣な顔つきのまま、しばらく言葉をなくしていた。
◇
<段議員>
段議員の秘書官がテキパキを仕事をこなしていく。
段議員は日向ぼっこよろしく、椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。
「ふぅ・・東とは物別れになりそうだ」
段がつぶやくと、秘書官が近寄ってきた。
「先生、調査隊と例の彼の追跡報告です」
秘書官から書類を受け取り、じっくりと見つめていた。
・・・
何ページかをめくり、書類を机の上に静かに置く。
「山口君(秘書官の名前)、調査隊の力もまずまずといったところだね。 何とか武力と呼べるかもしれない。 それよりも村上君だったか・・彼はギルドに所属したのだね。 彼らしいとはいえ、その力は個人としては大きすぎる。 さて、どうしたものか・・」
ハヤトの思惑など関係なく、段議員は世界の枠組みにそのピースをはめ込んでいく。
プルルル・・・。
段議員の机の電話が鳴る。
「はい、段です・・」
・・・
・・
段はしばらく話していたが、受話器を置くと秘書官にいう。
「山口君、遷都組の主要者を集めてくれるかね。 アメリカのダンジョンのことで話ができたよ」
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