第119話 帰路
<ダン隊長たち>
!!
前方にいたケンタウルスが消えた。
「な、いったいどこへ・・」
ダン隊長がそう思うと、後方で妙な雰囲気を感じる。
バッと後ろを振り向く。
隊員たちの退路を
左手に持った金色の槍をグルッと振り回し、悪意ある笑みを浮かべているように見えた。
ドン!!
ケンタウルスの頭部に何かが当たり、隊員たちに振り下ろされようとした槍の攻撃は回避された。
離れた場所でライフルを構えた人が
!!
「なるほど・・あれがマリアというスナイパーか・・この機会に隊員たちを退避させねば・・」
ダン隊長はすぐさま隊員たちの所へ近寄り、撤退の連呼を繰り返した。
魔物、ケンタウルスの動きを見てほとんどのものは戦意を喪失していた。
しかし、己の力を過信している者もいる。
ダン隊長の言葉を無視し、ケンタウルスに向かおうとする隊員が2名。
ケンタウルスは自分の攻撃が阻害されたのが余程腹立たしかったらしい。
金色の槍を持ったまま動かずに震えていた。
「へへ・・隊長は撤退などと言ってるが、ベン、俺はやってやるぜ」
「あぁ、俺もそう思っていたところだ。 ジョーはソロで戦ったからダメだったのだろう。 今の俺たちはそのジョーのレベルに届いているはずだ。 それにこの魔物・・動かねぇぜ」
「フッ、俺たちの力を計算しているのだろうよ。 一瞬で俺たちの前に移動したときには驚いたが、全く見えなかったわけじゃない」
「あぁ、かなり速かったが・・な」
「ダグラス、俺たちでやってやろうぜ」
「俺とベンでヒーローだな」
2名の隊員はケンタウルスとの距離を測る。
ダン隊長は2名の隊員を見捨てて、残りの隊員の撤退を急ぐ。
マリアが稼いでくれた時間だ。
10秒もあれば、この階層の入り口まで戻れる。
ベンとダグラスは仕方ない。
マリアも一撃放つと、即座に撤退をしていた。
◇
<ケンタウルス視点>
下等種族のゴミが・・。
傷つかずとも、我の動きが阻害された。
この地域の管理者が変更した世界システムのせいのようだが、ゴミ風情が我に対抗するなど、許されるはずがない。
・・・
ん?
なんだ、この前のゴミ2匹は。
は?
もしかして、我の行く手を
忌々しい・・。
ケンタウルスは金色の槍を力任せに全力で振り払った。
ドォォーーーン!!
ダン隊長の背後で爆音が響く。
「振り返るな!! 時間が無駄になる。 ただ入り口を目指せ!」
ダン隊長は叫ぶ。
後3秒ほどだ。
その時間を俺が稼がなくてはならない。
ダン隊長は、その場で足を止め、背後を振り返った。
!!
目の前にケンタウルスの前足が迫る。
急いで剣を構えるが、そのまま前足で踏み抜かれようとする。
「クッ!」
かろうじてケンタウルスの前足を躱すことができたが、右肩から腕が消失していた。
ケンタウルスがこのまま隊員たちを追撃していれば、全員入り口までたどり着くことはなかっただろう。
だが、ダン隊長が自分の前足の踏み抜きを、完全でないまでも躱したことが許せなかった。
下等生物が我に対抗するなど、あってはならないことだ。
踏み抜いた前足を軸に体を反転させ、避けたダン隊長の姿を見つける。
そのままもう片方の前足でダン隊長を蹴り飛ばした。
バン!!
ダン隊長の身体が弾け飛ぶ。
もう、そこに人としての生物は存在しなかった。
ケンタウルスはそのまま残りの隊員たちの方へと全力で向かう。
ダッ!
隊員たちは、後1秒ほどで魔法陣へ到着できそうだ。
ケンタウルスの強烈なプレッシャーが迫る。
そして黄金の槍が横殴りに振り回されてきた。
マリアの片足が魔法陣に触れる。
それに続いて残りの隊員たちも魔法陣に到着した。
だが、できない者もいた。
マリアは無事地上へと帰還。
隊員たちも2名は無事に帰還。
後は下半身がないものや、腕だけの者などが地上へと現れた。
「うぎゃぁぁ・・」
大きく叫びながら息絶える。
マリアは手で口を塞ぎ、目を閉じた。
2名の隊員たちも青ざめた表情で震えている。
・・・
・・
しばらく何もできなかったが、マリアがゆっくりと立ち、言葉を発する。
「とにかく、生き残った私たちだけでも戻りましょう」
隊員たちは力なく立ち上がり、背を丸くしてゆっくりと帰路につく。
◇
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