第118話 遭遇


第6階層・・確かこの階層でジョーが負傷したと聞く。

今のところ、我々は無傷だ。

どれほどの魔物が現れるのかわからないが、これほど一方的に敵を圧倒しているのだ。

問題はあるまい。

それに、皆レベルが1つは上がったことだろう。

私はレベル30だが・・あのマリアという傭兵はどうなのだろう?

我々と同じくらいのレベルと聞いていたが、凄まじい銃の腕だ。

・・

ただ、危険と感じたら、迷わず撤退しよう。


ダンは注意深く辺りを見渡す。

だが、隊員たちはレベルの上昇が余程うれしかったのだろう。

気分はハイテンションになっていた。

しかし、レベルが上昇するにしたがって、大きく成長しにくくなっているのも事実だ。


「おい、どうなった?」

「何がだ?」

「レベルだよ・・俺なんて28になったぜ」

「フフ・・俺も同じだ」

「今までどれだけダンジョンに潜っても、なかなか上がらなかったのにな・・ここは最高だな」

「あぁ、俺もそう思う。 だが、これだけの仲間がいてこそだ」

「それはそうだな」

「まぁ、お互い油断しないように、魔物を狩っていこう」

「うむ、俺もそう思うが・・皆、レベルが上がってうれしそうだ」

「そうだな・・だが、あのジョーですら負傷した階層らしいぞ」

「あぁ、そんなことを言ってたな。 でも、ジョー1人だったのだろう?」

「何がだ?」

「この階層に来た時には・・だ」

「う~ん・・よくわからんが、支援する奴もいたと聞くが、ソロに近い人数だったのは間違いないだろう」

「だろう? 今の俺たちを見てみろよ。 9名も高レベル者がいるんだぜ。 それに傭兵のあの女・・すごいぞ」

「まぁ、それはわかるが・・」

隊員たちはお互いに警戒はしているが、レベル上昇による優越感に似たものを感じていた。

「・・ま、大丈夫だろう」


隊員たちは完全に楽観視していた。

マリアも銃を抱えて休息している。

ダン隊長が隊員たちを見回り、士気を確認していると、別に何かに気付いたわけではない。

ただ、何となくダンジョンの奥の方を見た。

!!

何かが近づいてくる。

ゆっくりと何かが・・。

ダン隊長は静かに声をかける。

「皆、気を引き締めろ。 何かわからないが・・近づいてくるものがある」


ダン隊長が気付いた時と同じくして、マリアも気づいていた。

静かに目を開け、ダン隊長と同じ方向を見つめる。

即座にスキルを発動し、接近しているターゲットを補足。

片腕のない、四つ足の何かが近づいてきていた。


ダンたちの前方50メートルくらいだろうか。

その姿を現す。

ダン隊長は即座に理解した。

なるほど、これが話に聞いていた魔物、ケンタウルスなのかと。

片腕がないようだが、その左手には金色の槍を持っている。

それにこの雰囲気・・普通じゃない。

間違いなく強い。


隊員たちが色めきだつ。

「おい・・あの魔物・・今までのやつとは違うぞ」

「あぁ、強そうな雰囲気だな」

「倒すと、かなりレベルが上がるんじゃないか?」

「あぁ、おいしそうな獲物だが・・強そうだぞ」

「フフ・・俺たちの人数を知っているのか?」

・・・

隊員たちの楽観的な言葉をよそに、ダン隊長が指示を出す。

「総員、ゆっくりと前方を見つつ後退。 そして、一気に外まで退却する。 攻撃などしている暇はない。 急げよ」

「「「え?」」」

ダン隊長の言葉に隊員たちは意表を突かれた表情をした。

「「た、隊長・・なぜです?」」

「こちらには今までにない武器もあります」

指示に従う者もいたが、そうでない者もいる。


「いいから早くしろ! 敵は強い!」

ダン隊長も即座に撤退したい衝動に駆られていた。

だが、隊員たちを先に退避させねばならない。

なかなか指示に従わない隊員に声を大きくする。

「総員撤退だ! 早くしろぉ!!」


<ケンタウルス視点>


ゆっくりと歩きながら、ケンタウルスは近づいていく。

「なるほど・・人というのは愚かな生き物だな。 私との力の差を学ばなかったのか? 右腕の回復にはしばらく時間が必要だが、これだけの人数がいれば回復が早まるだろう。 メディケアマシーンに入れば半日で回復するが、施設まで行くのも面倒だ・・それに下等種族に傷つけられたままというのも気分が悪い」

ケンタウルスは笑っていただろうか。

見ているものたちにも感じられるくらい、悪意ある雰囲気をかもし出していた。

そんな中、ダン隊長の「総員退避」の声が聞こえる。


「逃がしはしない」

ケンタウルスはそうつぶやくと、一気に隊員たちの退路を塞ぐように移動。

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