第116話 ちょっとダンジョンでレベル上げ


男たちの間から、社長がハヤトの前にやってくる。

「おっさん、このダンジョンで何をしていた?」

ハヤトを冷たい目線で見つめる。

「俺か? ただ単にレベル上げをしていたんだが・・」

「レベル上げ?」

社長が言葉を繰り返しながら、男たちを見る。


「社長、確かにこういったダンジョンでレベル上げをする奴もいます」

社長はまた視線をハヤトに戻す。

「おっさん、何か魔石とか魔物の素材とか、金になりそうなものを持ってないか?」

社長の言葉に続き、男たちも言葉を浴びせてきた。

「おぉそうだぜ、おっさん、そのバックパックの中身を見せてみろ!」

「おっさんでもダンジョンに潜ろうなんて奴だ、ある程度のレベルはあるんだろう? 俺たちにも分けてくれよ」

・・・

・・

男たちは、ハヤトの疲れた姿を見て安心したのだろう。

かなり上から目線でハヤトに言葉を投げかけてくる。

1人の男が、ハヤトのバックパックに触れようとすると、ハヤトはサッと身を躱す。

「や、野郎・・おっさん、なめんじゃねぇぞ!」

「おぉ、こらぁ!!」

男たちはハヤトに触れられないことに、段々とイライラしてきたようだ。

社長が片手を挙げて、男たちを制する。


「おっさん、俺たちもダンジョンに入ろうと思ってたんだ。 道案内を頼んでもいいか?」

社長は、ハヤトをダンジョン内で始末しようと考えていた。

どうせ魔石を持っているはずだ。

俺たちが中で魔物を狩る分とおっさんが持っているだろうもので、そこそこの金にはなるだろう。

ハヤトは首を振り答える。

「すまないな・・俺、かなり疲れてるんだ。 早く家に帰って休みたいんだよ、どいてくれ」

ハヤトが男たちの間を抜けようとすると、1人の男がハヤトのバックパックを掴もうとする。

ハヤトは、やはりスッと触れられないように身体を躱していた。

自然と身体が反応するようだ。


「このおっさん、妙な動きをしやがる!」

「あぁ、やはりある程度レベルがあるのかもな・・油断するなよ」

・・・

男たちは、明らかに戦闘態勢に入っていった。

「おっさん、バックパックを置いていけば、命は助けてやるぜ」

社長は声をかける。

ハヤトを囲んでいる男たちはニヤニヤしていた。

社長の言葉の意味を知っているからだ。

バックパックを置いた瞬間、このおっさんは殺される。


「いや、俺の荷物は大事だからな。 それに、君たちも勝手にダンジョンに入って魔物を狩ればいい。 それじゃ、な」

ハヤトは面倒そうに話すと、立ち去ろうとした。

男たちも本能的にわかったのだろう。

ハヤトは全く戦う意思など持っていないようだった。

そして、何事もなく普通に歩いて行こうとする。

つまり、自分たちは全く相手にされていないということだった。

・・・

「ふ、ふざけるなよ、おっさん! 俺たちが何もしないからって気を大きくしてんじゃねぇぞ!」

「そうだぜ、さっさと荷物をよこしな」

「どうせ死ぬんだしな・・荷物が汚れる前に出しやがれ!」

男たちの声に、社長がうなずく。


男たちが一斉にハヤトに襲い掛かった。

ハヤトは何が起きているのか理解できない。

いきなり声をかけられたと思ったら、自分の荷物を奪おうとする。

・・

こいつら、人間だよな?

言いがかりをつけて人の荷物を奪うのか?

まぁ、こんな世界だ。

何が起きてもおかしくないが、いきなり過ぎないか?

ここは、日本だろ?

えっと、こいつらのレベルは・・22、21、21、20・・。

ハヤトはそこまで考えると、自分に一番近い男を掌打で吹き飛ばして道を作る。

ドン!

男は吹き飛んで行き、木に激突。

その空いたところをハヤトはスッと移動し、男たちから距離を取る。

ここでようやく男たちは、ハヤトが目の前にいないことに気付いた。

!!

「な・・なんだ? あれ? ヒロはどこに行った?」

・・・

男たちはキョロキョロと辺りを見渡す。

「いた!」

1人の男が木に激突して気絶していた男のところへ駆け寄っていく。

ヒロと呼ばれた男が生きていることを確認して手を振っていた。


「こ、このおっさん・・できるぞ。 油断するなよ」

男たちはハヤトと距離を測る。

社長もハヤトをジッと見つめていた。

「お前ら、悪人だろ? 人の物を奪うなんて・・まぁこんな世界になったんだ、人の命は安いだろうが・・それでも人として・・」

ハヤトは常識を言おうとしたが、やめた。

どうせ言っても理解するはずもない連中だろう。

疲れているしどうでもいい。


「おっさん、俺らを知っているのか?」

「ハハ・・知るわけないよな。 その稼業じゃ結構有名なんだがな」

「フフフ・・まぁいい、やるぜ」

・・・

社長がうなずく。

!!

男たちが一斉にハヤトに襲い掛かる。

今度は素人の動きではない。

きちんと順番通りに連携しているようだ。

足を狙うもの、背中から長いナイフで突いてくる者など。

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