第113話 誰?
◇
<ハヤト>
俺は○○ダンジョン7階層に来ていた。
勝手に入るのはどうかとも思ったが、何とかなるだろう。
今までも入っていたし。
さて、この空間・・ほんとに落ち着いた雰囲気だ。
魔物など居そうな気配すらない。
実際に探索にも引っかからない。
「ベスタさん・・いったい何の空間だろうね」
『ハヤト様、油断だけはなさらないでください』
ベスタがやけに慎重になっている感じがする。
「うん、わかったよ」
俺は返事をしつつ、ゆっくりと歩いて行く。
別にどこかを目指しているわけではない。
ただ、自分の動く範囲を広げているだけだ。
・・・
・・
1時間くらい歩いただろうか。
全く魔物に遭遇しない。
それどころか、本当に大きな公園を散歩している感じになった。
太陽はないが、小春日和の明るさがある。
気温も申し分ない、とても快適だ。
こんなところで住むことが出来たら最高だろうという感じすらする。
「ベスタさん・・ほんとに何もないね」
『・・・』
ベスタからは返事はない。
「ベスタさん? 何かあったのかい?」
俺はその違和感に問いかけてみる。
『ハヤト様・・確かに魔物はいませんが、何かがいます』
「は?」
ベスタの言葉を反芻する。
「何かがいる? 魔物じゃないのに? 俺達以外に・・誰かがこの階層に到達したのだろうか?」
『いえ・・その・・何と言いますか・・確かに何かがいるようなのです。 ただ、それが生き物なのかと言われると、わからないのです」
「は? べ、ベスタさん・・感知できてるってことは、生き物なんだよね?」
『感知・・という表現も正確ではないのですが・・とにかく、何か、としか申し上げられません』
「う~ん・・何か、か・・それで、それはどこにいるの?」
『はい、ハヤト様の前方です。 正確な位置はわかりかねます』
俺はベスタの指示する方向へゆっくりと歩いて行く。
しばらく歩いたが、特に何か感じることはない。
「ベスタさん、やっぱり何もないようだが・・」
俺がそこまで言葉を出した時だ、大きな岩の塊が木の影から見えた。
「何だ、あの岩・・もしかして、ベスタさんが言っていた、何かってあれかな?」
『ハヤト様、はっきりとはわかりませんが、何かのような感じがします』
「う~ん・・」
俺はベスタの反応に少し悩む。
何かのような感じがしますって、どういうこと?
目の前にあるのに、その何かがわかっていないような・・不気味だな。
俺は岩の前に来ていた。
3mくらいの高さがあるだろうか。
木の陰に隠れていてはっきりとはわからなかったが、確かに妙な岩だ。
茹で卵が立っているような感じだ。
ただ、岩にはコケがつき、周りの景色に馴染んでいるので、かなりの年数が経過しているのがわかる。
俺は岩の周りをゆっくりと歩いてみる。
特に何か変わったようなところはない。
ちょっと触れてみよう。
俺が手を伸ばして岩に触れようとすると、ベスタが注意をしてきた。
『ハヤト様、注意してください。 何か、妙なことが・・火山の爆発のような感じがします』
「は? 火山の爆発?」
俺は触るのを躊躇する。
俺が手を引っ込めようとすると、岩の方から近づいてきたような気がした。
ピタ!
俺の手が岩に触れる。
ピカァッ!!
岩が一瞬光ったかと思うと、白い光に包まれてその光が収束していく。
・・・
・・
その収束した先に裸の人が片膝をついていた。
!!
な、なんだ?
俺は驚きで動くことができない。
目の前に現れた人? が、ゆっくりと立ち上がる。
真っ白な髪をして、微笑みながら俺の方を見ている。
そして、ゆっくりと動き出して俺の方へ近づいて来た。
!
ック・・動かなければ!
俺はそう思うが、身体が反応しない。
クソ!
動け、動けよ俺の身体!
俺は必死に頭の中で繰り返す。
裸の人が俺の目の前まで来ると、少し首を傾げてさらに微笑む。
そして、言葉を発した。
『君は・・ハヤト君だね』
!!
なっ!
俺の名前?
どういうこと?
俺は更にパニックになる。
『フフフ・・驚くのも無理はないかな。 とりあえず、この階層までようこそ』
目の前の裸の人が笑顔で迎えてくれた。
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