第112話 それぞれの動き


<アメリカ>


マリアが入国し、大統領のところに来ていた。

VIP用の車での送迎となる。

「どうぞ、こちらです」

見るからに仕事ができる雰囲気を纏い、笑顔でマリアを案内している男がいた。

扉の前でマリアに軽く会釈をし、入室するように案内している。


「失礼します」

マリアは一言声をかけると、部屋の中に入る。

入り口を通過して右側を見る。

奥に大きな机があり、そこの席にいた男が立ち上がった。

「ようこそ、マリア君だね」

男は笑顔で出迎える。

「はい」

マリアは返事をしつつ、男の方へ移動。

男もマリアの前まで移動していく。


「私が、アメリカ大統領のスミスだ。 こちらの要請によく応えてくれた。 ありがとう」

大統領は笑顔で握手を求める。

マリアも笑顔で返し、握手をした。

大統領に促されるまま、ソファに座る。

大統領もマリアの正面に座った。

「マリア君、要件を伝えても良いだろうか」

「は、はい」

大統領は補佐官の方を見ると、お互いにうなずく。

余計な時候の挨拶はしないことは決まっていた。


「うむ・・実は、我が国に特殊なダンジョンが出現したのだ。 何やら知性を持った魔物がいる。 英雄を向かわせたが、返り討ちにあったらしい・・」

・・・

・・

大統領も正確に知っているわけではなかったようだ。

ジョーは魔物の討伐に向かったのではなく、偶然出会ったのだ。

ギリギリで何とか生き残ることができたわけだが。

しかし、準備をしていけば、結果はどうなったかわからない。

とはいえ、勝利が確実にあると明言はできない。


マリアは大統領の話を聞いていて違和感を覚えた。

自分が戦力になるのはわかる。

だが、どうも上から目線の雰囲気が拭いきれない。

作戦に参加させてやるから、その素材や情報などはアメリカに検分させろという感じを受ける。

「大統領・・」

マリアが言葉を挟む。

「ん・・何かね?」

「はい、この国のヒーローのジョーですが、彼ではダメなのですか?」

「うむ・・彼は・・このダンジョンからは手を引くと言っていてな・・何度か依頼したのだが、余程心の傷が深かったらしい・・」

「そうですか・・了解しました。 私はそのためにここに来ているわけですし・・よろしくお願いします」

マリアの言葉を聞き、大統領と補佐官は大きくうなずいた。

「では、マリアさん、早速ですが・・」

・・・

・・

補佐官が状況を説明する。


<内閣調査隊:素材班>


楠木班長が素材を確認していた。

「これを攻略隊の人たちが狩ったの?」

「は、はい・・そうみたいです」

素材班の隊員の1人が背中から聞こえた声にドキッとした。

「オーガジェネラルよね・・凄いものだわ」

楠木班長が大きくうなずく。

「は、班長・・それだけではないのです。 あちらを見てください」

隊員の指さす方を見た。

「あれは・・」

楠木班長が早足で近づいて行く。


「あ、班長・・」

「真田さん、これって・・」

「はい、オーガキングです。 攻略組のレベルがかなり上がって来たようですね」

「そうみたいね・・私たちも負けていられないわね」

楠木班長と助教がお互いにうなずき、素材班の訓練についての協議を軽くする。


<中田>


中田は調査隊の攻略組に組み込まれていた。

レベルは26。

「中田小隊長、オーガジェネラルが2体いるようです」

中田はその報告を受けると、周囲を索敵。

・・・

「なるほど・・ジェネラルの奥にキングがいるみたいね。 3名1組に分かれて陣形を維持。 2組がオーガジェネラルを相手にしているうちに、私たちがキングを討伐。 10秒後にスタートするわよ、大丈夫?」

「「「はい!」」」

・・・

・・

中田たちは危なげなく討伐を完了し、帰路についていた。

「アハハ・・俺達、かなり強くなったよな」

「あぁ、これも小隊長の的確な指示のおかげだな」

「そうよ、私たちだけじゃ、こんなに早く成長できなかったわよ」

「俺もそう思うよ・・」

・・・

隊員たちは上機嫌だった。


中田は殿しんがりつとめながら考えていた。

村上さん・・ほんとにどうしちゃたのかしら。

調査隊に入ったと思ったらすぐに退職したというし。

挨拶する暇もなかったわ。

私が知った時には辞めてたし・・。

あの人って、何かを途中で投げだすような人じゃないはずだけど・・人が変わったのかしら。

わからない・・今度、時間ができたら連絡してみよう。

・・ちょう・・

「小隊長!」

!!

中田を呼ぶ声が聞こえた。


「え? あ、あぁ・・ごめんなさい。 何かしら?」

「い、いえ・・小隊長が何か真剣な顔をしていたものですから・・調子でも悪いのかと・・」

「ううん・・少し考え事をしていたの。 心配させたわね・・ありがとう」

「い、いえ・・こちらこそ余計な言葉を・・」

隊員たちが心配そうな顔を向ける。

「えへん・・みんな、ごめんなさい。 今日の夜のご飯を考えていたの。 このオーガって、焼くと結構おいしいでしょ、それで、ね」

中田の言葉に、少し引き気味になりながらも、隊員たちに笑顔が広がった。


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