第111話 ギルドにて
<アメリカ>
パチパチとキーボードを叩く音、いくつものモニターを立ったまま見ながら会話している人たち。
コーヒーを片手に何やら難しい顔をしているおじさん。
いろんな人がせわしなく動き回っている。
そんな中、1人のスラッとしたおじさんが、年配の人に近づいて行く。
先に書類1枚を手渡していた。
「大統領、彼女がスイスから派遣されてくるマリアという人物です」
大統領と呼ばれた男は書類をじっくりと眺める。
・・・
「ふむ・・それであのダンジョンを攻略できそうかね?」
「はい、ジョーの負傷により、こちらも戦力を再編成しました。 レベル的にはジョーに近い部隊を3つ考えております」
「うむ・・確か、ケンタウルスだったか・・あのジョーがやられたのだ。 大丈夫なのか?」
大統領が不安そうに聞く。
「はい、全く問題ないというわけではありませんが、敵が判明しておりますし、危険と判れば即時撤退をします。 その繰り返しでダンジョンを攻略していこうと考えております」
「うむ・・君の言う通り、未知の魔物であり、その素材の価値は計り知れない」
「はい、先日も報告させていただいたように、オーガジェネラルクラスの素材を使えば、現代におけるチタン素材よりも強靭なものが完成しております。 軽く扱いやすいものばかりです。 そして、オーガキングの素材を銃火器に使用した場合など、まるで魔法かと思われるような威力を発揮しております。 それらを携帯させてある部隊です。 いくらジョーを負傷させた魔物といえども、時間をかければ討伐は可能かと思われます」
「うむ・・我が国の武力が向上するのは喜ばしいことだ。 後、今回の件だが、日本に声をかけなくて本当に良かったのか?」
大統領が少し怪訝な顔をする。
「大統領、それは何度も協議いたしましたが、今からは過去のお金を必要としない時代に突入しようとしております。 日本は戦後、我が国の金庫番として十分に貢献してきた国です。 そして、その見返りも与えました。 彼らもそろそろ自分たちの足で立ってもらわねばなりません」
大統領に笑顔で熱弁をしているが、実のところ不要だから切り捨てるというものだ。
「確かにな・・だが、日本にもレベルの高い者がいたという報告は受けている・・対立することになった場合、先の大戦のような轍を踏みたくないものだ」
「はい、そのようなことは起こらないように調整はしております。 日本でもレベル30を超えるものは何名かは存在しているようですが、我が国ほどではありません。 そして、おそらくこの境界レベルが世界を左右すると思われます」
「うむ・・そうだな。 世界は変わる・・そしてその基軸は、我々でなければならない」
「はい、その通りです」
大統領と補佐官はゆっくりとうなずいた。
◇
<ハヤト>
俺はギルドの中で少し休んでいた。
衝撃だ。
まさか俺の知らない間に、これほど世の中が変化しているとは。
もっと早くにギルドについてわかっていれば、調査隊になど入らずにここを利用していたかもしれない。
・・・
いや、違うな。
調査隊があったからこそ、今があるのだろう。
それにいろんな知人ができた。
やはり自分の身体で動いて情報を得ていかなければ変化はない。
ハヤトは短い時間の間に激変していた。
過去の自分を乗り越え、その存在すら、もう考えることもできないだろう。
「さて・・あの7階層、やはり調べてみたいな」
『ハヤト様、決して無理だけはなさらないでくださいね』
ベスタが心配してくれているようだ。
「ありがとう、大丈夫だ。 じゃ、行ってみるか」
『はい』
俺は席を立ち、情報モニターを確認して出発する。
ふ~む・・やはり素材関連の情報が多いな。
ゴブリンやオーク・・これだけでも数十万円になるらしい。
みんな冒険者になりたがるわけだ。
調査隊は名誉職みたいなものかな。
俺が情報モニターを眺めていると、いろんな声が聞こえてくる。
「・・俺、やっとオークを倒したぜ」
「やったな・・結構、金になるだろ?」
「あぁ、3匹も倒せば、サラリーマン時代の月給だものな」
「そうそう、俺もあの社畜生活はうんざりだったんだ」
「こんな世界になって、本当のブラック企業は消えて行くのだろうな」
「うむ、ありがたいことだ」
「だが・・命の保証がないんだよな」
「そうだな・・警察力も当てにならないしな」
「フフフ・・それは昔からだぞ。 彼らは違法を捕まえるだけだからな・・決して弱いものの味方じゃない」
「お前、昔からそれ言ってたな」
「無論だ! だからこその今の世界が素晴らしい」
「アハハ・・全くだ・・」
・・・
・・
なるほど、みんな同じように苦しいながらも日本社会に生きていたんだよな。
そんな日本でも、世界のほとんどの国よりは遥かにマシなはずだ。
今は、それすらも怪しい世界だが、段議員たちが何やらやっているのだろうな。
知らんけど・・。
俺はギルドを後にする。
◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます