第109話 疲れたわ


俺がいろいろと考えていると、ギルマスが話しかけてきた。

「村上さん、わかったかしら? 大体ギルドでは、そんなところが常識の範囲なのよ。 高レベルの冒険者が存在するギルドは知名度も上がるし、人が集まって良いことが起こるけど・・行き過ぎは・・ね。 さすがにギルドで国に対抗するには、力が足りないわね」

「なるほど・・了解しました」

「それで、村上さんはこれからどうするつもり?」

ギルマスが真剣な眼差しで俺を見る。

「どうするとは?」

「あなた、まだ自分の立場がわかってないようね」

「え?」

「あなたがその気なら、世界のどこに行ってもVIP扱いになるわよ。 そうね、異世界でいうところの貴族のような生活が保証されるわ」

俺はギルマスの言葉に驚いた。

そんな野望は1ミリもない。

静かな安定した生活環境があればそれでいい。


「ギルマス・・私はそんなことは考えたこともありませんし、望みもしません。 静かに自分を鍛えて自由に暮らしたいだけですよ」

「フフ・・周りがそれを許してくれるかしらねぇ・・ま、このギルドに所属してくれるのはありがたいわ。 その先は、またその時がくるまで保留ね」

「その時? 今の情報って、機密扱いなのですよね?」

「そりゃそうよ。 でもね、情報はどこから漏れるかわからないわ。 私や松本さんからは漏れることはないわよ。 でも、村上さんの存在は既に内閣調査隊に知られているわけでしょ? どうなることやら・・」

ギルマスが微笑みながらゆっくりと席を立つ。

「ま、何にせよ、これからよろしくね」

「こ、こちらこそよろしくお願いします」

ギルマスが握手を求めて来たので、俺も慌てて席を立ち、その手をギュッと握った。


「村上さん、その素材だけど、私のところで引き取らせてもらうわね。 お金はライセンスカードに振り込まれると思うから、後で確認しておいてね」

「はい、ありがとうございます」

「あ、それと・・私の胸を覗いたことは大目に見てあげるわ。 逸材だしね」

「え、あ・・いや、見えただけですよ。 見たわけではありません」

ギルマス・・やっぱり気づいていたというか、ワザとだったのか!

「フフ・・そういうことにしておくわ」

俺は軽く会釈をして、室長室を後にする。


<室長室>


ギルマスが机の上の電話を手に取った。

・・・

「もしもし、日置です。 えぇ・・はい、その通りです。 既に把握されておりましたか・・はい・・わかりました。 こちらで登録となり、Cランクからのスタートです。 えぇ・・Bくらいで抑えておきます・・はい、よろしくお願いします」

ギルマスが椅子に深く座り直す。

はぁ・・村上さん、これから世界は激変するけど、あなたがこのギルドに来てくれたことにとても感謝するわ。

日本も分裂するかもしれないし、世界なんてどうなることやら。

それにダンジョンなんて、まだまだわからないことだらけだし・・。


コンコン。

ドアをノックする音が聞こえた。

「どうぞ」

「失礼します」

松本が入って来る。


「松本さん、どうぞ腰かけて」

「はい、ありがとうございます」

松本がソファに座ると、ギルマスも正面に座った。

「それで・・ギルマス、彼の状態はわかりましたか?」

ギルマスがゆっくりと首を振る。

「ダメね・・聞けなかったわ。 まぁ、変なことをする人でもないようだし・・」

「はい、私が見た感じでも、悪意のかけらは見つけられませんでした」

「そうね・・松本さん、彼を見た感じ・・どれくらいのレベルだと感じた?」

ギルマスの言葉に松本が笑う。


「フフ・・正確なレベルはわかりませんが、おそらくレベル28位じゃないかと思います。 このギルドで最強に位置するところですね」

松本の言葉にギルマスが微笑む。

「さすが、良い線言ってるわ。 フフ・・最低でもレベル27はあるそうよ。 おそらくその自己申告すら嘘でしょうけどね」

「なるほど・・それで、どうされるおつもりですか?」

「そこなのよ。 特に問題をおこさなければ、このままでいいかなって思ってるの。 内閣調査隊にはレベル30を超える人たちが何人かいるし・・それほど注目はされないと思うのよ」

「レベル27以上・・ですか。 脅威ですね」

松本はしばらく考えていたが、大きくうなずく。

「了解しました、ギルドマスター。 では、私はこれで失礼します」

「ありがとう」

ギルマスは松本を見送る。


「ふぅ・・それにしても、いったいどうやってそんなレベルを手に入れたのかしら? 気になるところだけど、あまり干渉も出来ないし・・ヤマトちゃんに聞いてもねぇ・・坂口君なら教えてくれるかしら?」

ギルマスは椅子に深く座り直して、大きく伸びをする。

今日は、少し疲れたわ。


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