第108話 もう驚かないわ


「松本さん、どう?」

松本はかなり疲れているようだ。

「ふぅ・・」

大きく息を吐くと、ソファーに倒れ込むように座った。

「・・ギルドマスター・・この魔石や素材ですが・・私では鑑定できません。 かなりレベルのあるものだとは、わかるのですが・・その・・力が強すぎるのです」

ギルマスが苦笑にがわらいをし、松本に労いの言葉をかける。

「ありがとう、松本さん。 その魔石はトロウルとジャイアント。 そして角がミノタウロスのものだそうよ」

ギルマスの言葉に松本は驚いた表情をするが、返答はない。

「そうでしょう・・私も驚いているのよ。 おそらく世界でも、ここにしかない魔石だと思うわ。 それにミノタウロスの角なんて一体誰が信じるというの?」

「ギルドマスター・・その素材を持って来られた方が、そこに座っている人ですか?」

松本が疲れた表情を俺に向ける。

「そういうこと」

ギルマスが難しそうな顔をしていた。


「私は鑑定士の松本といいます。 失礼ですが、あなたを鑑定してもいいですか?」

俺はギルマスの方を向く。

ギルマスがうなずいていた。

「わかりました」

ギルマスがいろいろと手配してくれているんだ。

それにここでのことは口外しないと言っていた。

俺から暴露する必要はないだろうが、調べられてわかる範囲は答えてもいいだろう。

鑑定士がそっと俺の右手を両手で握る。

しばらくそのままでいたが、やがて俺の手は解放された。


松本がゆっくりと首を振り、ギルマスの方を向く。

「そう・・松本さんでも測定不能なのね」

「申し訳ありません」

「いや、いいのよ。 ただ、ここで起こったことは決して口外しないでほしいの」

「はい、了解しております」

松本はスッと席を立ち、軽く会釈をすると室長室を後にした。

ギルマスが俺の方を見てため息をつく。

「はぁ・・どうしたものかなぁ・・」

「ギルドマスター・・もしかして、私の存在がヤバい状態ですか?」

俺は異世界であるある的な状態を考えていた。


ギルマスが微笑みながらうなずく。

「そうね・・まずはこの素材関連はこのギルドの機密事項になるわね」

「・・あの・・売ったりできないのですか?」

ギルマスが俺を睨む。

「村上さん・・あなた世界を敵にしたいの? こんなことが分かってしまったら、世界中があなたを奪い合うわよ。 戦争よりもひどいことが起こるかもしれない」

マ、マジか。

「ギルマス・・どのくらいの魔物なら、取引可能になるのですか?」

俺は無職だ。

とにかく少しでも小遣い程度は欲しいところだ。

株式配当だけでは心細い。


「そうねぇ・・レベル20~25くらいなら、かなり良い取引になると思うわよ」

「なるほど・・」

そういえば、オーガやオーク辺りの魔石が結構あったことを思い出した。

確か、乱雑にバックパックの小さなポケットにしまったはずだが・・。

俺はバックパックのポケットを漁っていた。

・・・

えっと、これがオーガジェネラルとオーガキングの魔石だったよな。

違ったか?

まぁ、そこら辺りの魔石のはずだ。

「ギルマス、この魔石はどうですか?」

俺はその魔石を机の上に出してみる。


ギルマスが無言で動かない。

・・・

「ギ、ギルマス?」

「・・村上さん・・もう驚かないわ。 その魔石って、オーガキングよね? このギルドでは誰も持ってきたことないわよ。 私も研修中に見たことがある程度よ。 それを簡単に・・」

「ダメ・・だったのですか?」

「はぁ・・ダメとかそういう問題じゃないのだけれど・・で、これを売却したいわけね」

「は、はい。 そうです」

ギルマスが魔石を手に取りながら俺を見る。

「村上さん、こちらはオーガジェネラルね。 私も正確な金額は提示できないけど、おそらく数百万はすると思うわ」

!!

俺は一瞬言葉が出て来なかった。

ギルマスの顔を凝視する。

「ほ、ほんとですか?」

ギルマスがうなずく。

俺、スゲー金持ちになるんじゃね?

じゃあ、あのトロウルとかジャイアントなんて・・あ、公表できないんだったな。

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