第104話 佐々木さん


ギルドって、本当に異世界ものであるような雰囲気になっている。

背中に大剣を背負っている人や杖、ライフルなど、多彩な格好の人たちがいた。

日本って銃社会になったのか?

いったいどうなっているのやら、理解が追い付かない。

「ベスタさん・・魔法って、ないよな?」

『ハヤト様は既に回復するスキルを使われております。 スキルポイントを消費して、ハヤト様の言葉で言えば、魔法と同じことが具現化されております』

「・・・」

俺に言葉はない。

これって、もう完全に異世界仕様になったってことか?

俺は頭でそんな会話をしながらギルドの受付前に来た。

登録する窓口と一般カウンターに分かれている。

ほとんどの人は一般カウンターの前で待機していた。

登録するカウンターは左端のこじんまりとしたところにある。


俺が登録するため、カウンター前に行こうとすると横から声が聞こえた。

「あれ? さっき入り口でいたおっさんじゃねぇかよ。 もしかして、登録するの?」

ため口かつ笑顔で話しかけてくる。

他に若い可愛い女性と、男性の3人のグループのようだ。

「え、あ、あぁ・・そうなんだ。 今から登録するんだよ。 それにしても、こんなギルドが出来ていたなんて・・知らなかったよ」

俺の回答に3人の若者が顔を見合わせて、少し驚いていたようだ。

「ハハハ・・マジかよ。 みんな登録してレベル上げたり、ダンジョンに潜って素材回収したりしてるぜ。 俺たちも異世界転生気分だし、冒険者なんてのが仕事になるんだぜ。 願ったり叶ったりだよな」

「うんうん、私たちも頑張ってるものねぇ」

「まぁな・・それよりもおっさん、ダンジョンは結構しんどいぜ」

若い男が教えてくれる。

案外いい奴なのかもしれない。

俺はうなずく。

「まずは登録からだな。 ま、わからないことがあれば受付が教えてくれるし、頑張ってな」

「あぁ、ありがとう。 頑張るよ」

俺はお礼を言って、受付に行く。


<ハヤトに声をかけてきた男たち>


ハヤトが受付に行くのを見送ると、掲示板の方へ移動した。

「ねぇケン、あのおじさん・・何か妙な雰囲気じゃなかった?」

「え?」

「俺は何も感じなかったが・・ヨシヒコはどうだ?」

「う~ん・・俺も何も感じなかったぜ」

「そっかぁ・・」

「でも、クミの勘って結構当たるんだよな?」

「なによ、それ~」

ケンがハヤトの背中を見つめる。

「う~ん・・特別な感じは受けないな」

「そっかぁ・・私も今注意して見たけど、何にもないものね。 何だったんだろ?」

「あ! まさかクミ・・おじさん趣味だったのか? やっべぇ~・・」

「え? ち、違うわよ! 変なこと言わないでよケン!」

「イテテ・・ご、ごめんよ。 ま、ギルドじゃいろんな人がいるからな。 実際60歳を過ぎたおじさんもいるしな」

「あぁ、クラン白狼の人たちね」

「あそこは、特殊だよな」

ケンたちはみんなでうなずき合っていた。


<ハヤト>


俺は受付の前に座っている。

「お待たせいたしました。 担当させていただきます、佐々木です。 えっと、ギルドに登録される手続きでよろしいですか?」

「は、はい。 よろしくお願いします」

佐々木と名乗る女の子が気持ちの良い笑顔で出迎えてくれた。

惚れてしまいそうだ。

「まずはお名前を頂戴してよろしいですか?」

「は、はい。 村上 隼といいます」

「むらかみ はやと様ですね・・」


佐々木さんは手元のPCで入力をしていた。

「佐々木さん・・えっと、ギルドに行ったらこれを提示しろと言われておりまして・・」

俺はそう言って、楠木班長からもらったライセンスカードを取り出した。

佐々木さんがチラッと見て、PCを入力しようとしたが、もう1度ライセンスカードを見直して、凝視する。

手に取り、俺の顔とライセンスカードを何度か見直していた。


「む、村上さん・・内閣調査隊にいたのですか?」

佐々木さんが真剣な眼差しで俺を見る。

「は、はい・・ほんの数日ですけどね」

佐々木さんが顔を近づけて来て、囁くように言う。

「村上さん、今からギルドマスターと会っていただくことになりますが、あまり目立つようなことをすると、色々と面倒なことになるので、後ろの椅子でしばらくお待ちいただけますか?」

「は、はい、わかりました」

「それにしても村上さん、レベル27もあるんですね。 私、初めて見ました」

佐々木さんはそうつぶやくと、事務所の奥へと歩いて行く。

俺は言われた通り、椅子に座って待つことにする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る