第102話 それぞれの思惑
<中国>
昨日と今日とでは、まるで違う世界が成立しているようだった。
かつての共産主義で利権を得ていた連中は即刻即座に排除されていた。
元々、この国は家族を中心に動く民族性だ。
横のつながりは強い。
ギルドを通じて、その家族同士の争いは行なわないという契約を、どの集団も交わしていた。
そんな集団が瞬く間に広がって行く。
ギルドのシステムが民族性に合っていたのかもしれない。
「ファン、我々の国は変わる。 みんなが生き生きと自由に活動できるところになる。 これで良かったのだろうな」
「うん」
「後は、ダンジョンなどの管理と欧州や東方との連携だが、ギルドが役だってくれている」
王偉は仲間たちと笑顔で溢れていた。
◇
<スイス>
マリアたちが集まり、中国やアメリカのことについて話し合っていた。
「ダニエル君、我が国も早急に方向性を決めねばならない」
マリアは静かに話を聞いていた。
「えぇ、それは理解しております。 我々は個人的な集団です。 ギルドを通じて町として機能していますが、この国にどれくらいの規模の町があるのかは存じ上げておりません」
ダニエル代表は、連日政府関係の人たちと同じことの繰り返しだった。
「うむ・・こちらとしても、君みたいに協力的なところばかりではないのだよ。 ロシアの脅威は常にあり、直近では中国がより強固になったと聞く。 それに武装集団組織が増えてきた・・これはどの国も同じ状況のようだ」
「はい、私の耳にも届いております。 我々の町の中では、厳格なルールを持って処断しておりますが、その外には干渉できません」
「うむ、ダニエル君のところは模範的だよ。 それに倣う町もあるが、ほとんどが無法地帯だね。 レベルによる力の統治とでもいえばいいのか、専制的なルールといえばよいのか・・フフ、我々の国も、もはや国としての統一感は薄いのかもしれない」
政府行政官が自嘲気味に話す。
「人は所詮は性悪説なのかもしれません。 その前提で性善説を秘めてルールを考えたりもしますが・・えへん・・とにかく、我々の集団はこのスイスの国を害することはありません。 何なら書面で残しましょうか?」
ダニエルがはっきりと明言する。
「う、うむ・・そこまで・・いや、ダニエル君、よろしくお願いする。 君の町が支持してくれるなら、他の町もハードルが下がるだろう」
行政官は笑顔で握手を求め、そのままダニエルのところを後にする。
政府行政官を見送った後、ダニエル達指導的立場の連中が10名ほど集まっていた。
「代表、例の件ですが、誰を派遣しますか?」
「アメリカの謎の魔物か・・我々のところでもいつ現れるかわからない。 だからと言って、レベルのないものを派遣するわけにもいくまい」
ダニエルは少し考えていたが、マリアの顔を見る。
「ダニエル代表・・わかっています。 私が適任でしょう。 あのアメリカのヒーロー、ジョーが負傷したとの情報も入っています・・それに、ここには私に近いレベルのものが揃っています。 問題ないでしょう」
マリアがはっきりと笑顔で答えていた。
「すまないな、マリア・・政府行政官は調子のよいことを言っているが、現実には世界は混沌と化しているだろう。 だからこそ強いところとの関係は強化しておかなければいけない。 申し訳ない」
「代表、顔を上げてください。 私はこの町が生き残るのがすべてです。 ご安心を」
マリアに悲壮感はない。
代表に軽く会釈すると、準備のために席を離れた。
◇
<アメリカ>
ジョーは既に回復しており、仲間たちの基礎レベル上げに精を出していた。
「サラ、今からこの仲間でダンジョンへ向かうよ。 僕も経験値を得たいしね」
「マイヒーロー、わかっていると思いますが、あのダンジョンはやめてくださいね」
サラが真剣な顔つきで話す。
「フフ・・わかっているよ。 今では政府公認でSランク指定ダンジョンだからね。 もう誰も近づく者もいないだろう」
サラはホッとする。
「はぁ・・ほんとにあんな魔物はコリゴリです」
サラの言葉を聞きながら、ジョーは仲間たちに注意事項などを説明していた。
説明が終わり、ジョーが出立準備の確認をしていると、サラが小さな声で話しかける。
「マイヒーロー、近々欧州から応援が来るという話があります」
ジョーの動きが止まる。
そしてゆっくりとサラの方を見た。
「なんだと? まさか・・あのダンジョンを攻略させようなんてことはないよな?」
サラがゆっくりと首を振りながら答える。
「わかりません。 どういった目的で来られるのやら・・ですが、政府もそれほどバカな選択はしないと信じたいものです」
「・・そうだな・・」
ジョーはそう返事をすると、気持ちを切り替えてダンジョンへ向かった。
◇
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