第101話 ひと段落


そのうちミノタウロスが動かなくなる。

首は落ちることはなかったが、そのまま地面に突っ伏していた。

しばらくして、俺の頭の中に『レベルが上がりました』の声が聞こえる。


「はぁ・・もう動けない」

俺は仰向けになり、両手を広げていた。

「ベスタさん、ありがとう。 どうにか勝つことができたよ」

『はい、ギリギリといったところですね。 後・・周りに脅威はないようです』

ベスタが最後まで油断することなく警戒をしてくれていた。

俺は安心したのか、すぐに気を失ったように眠ってしまったらしい。

・・・

・・

「ん?」

俺は少しボォーッとしていたが、急いで身体を起こし辺りを見渡す。

!!

ドッキーン!

俺の横でミノタウロスが横たわっていた。


「ふぅ・・そうだった・・ミノタウロスを倒したんだったな」

『ハヤト様、ご無事で何よりです。 これで6階層に強い魔物は残っていません』

「そ、そうだ・・素材を回収しなきゃ。 えっと・・身体は持って行けないし・・角と魔石くらいでいいかな」

俺はバックパックからナイフを取り出してミノタウロスの身体をまさぐって行く。

ほんの数日だったが、調査隊の素材班でいたのが役立つとは。

無論、トロウルやジャイアントの魔石は回収していた。

素材は放置したが。

さて、心臓の辺りに魔石があるはずだが・・。

俺の手に堅い何かが触れる。

それを掴み、取り出してみると紫色に光る魔石があった。

「おぉ・・きれいだな。 後は角か・・」


見るからにナイフでは無理そうだ。

鉈で角の根元目掛けて思いっきり振るってみる。

ドン!

角の半分くらいまで鉈が埋まった。

一度引き抜き、もう一度振り下ろす。

ズバン!

案外、簡単に取ることができたな。

俺がそんなことを思っていると、ベスタが突っ込む。

『ハヤト様、レベルが上がったためだと思われます』

あぁ、なるほど。

俺はその素材をバックパックに詰め込む。

食材もかなり減っていたのだが、バックに残りスペースはほとんどない。


「えぇっと、ベスタさん・・次の階層をカウントしてもいいよね?」

『ハヤト様・・次の階層は一段と強い魔物が存在すると思われます。 ご注意を』

ベスタから当然の言葉が飛んで来る。

「そ、そりゃ当然だろうね。 あ、えっと・・今のレベルを確認しよう」

俺は取りあえず自分の現状を見る。


ハヤト

レベル:37 

HP :540/630

SP :420/640

力  :687    

耐久 :600  

敏捷 :715   

技能 :626   

運  :63   

スキル:ベスタ7

    神眼7

    プリースト6


「ふむ・・どう評価すればよいのか・・」

俺は判断に迷っていた。

「ベスタさん、前に言ってたよな? 俺は坂口団長よりも強くなっていると・・」

『はい、その通りです。 個人の技などは考慮せず、レベルによる恩恵を考えれば、今はミノタウロスよりも強いですね』

マジかぁ・・ちょっと引くな。

あの魔物よりも強いって・・実感できないけど、ベスタさんが言うのならそうなのだろう。

俺はゆっくりと立ち上がり、7階層へと向かう。


<段議員>


ハヤトを尾行していた2人の男たちが報告を終えていた。

「ご苦労だったね・・だが、彼1人で君たちよりも強いということかね?」

男たちは苦笑いすると、うなずく。

「ふ~む・・やはりレベル27というのは違うようだな。 この件は引き続き観察というところか・・頼むよ」

段はそう告げると、電話をかける。

男たちは退出していた。


「先生、その後どうなっておりますか? えぇ・・遷都の件ですよ・・はい・・なるほど・・やはり古い体質は抜けませんか。 いえ、ありがとうございます。 では、また」

段は椅子に深く座り直す。

そのタイミングでそっと飲み物を出す若い秘書官がいた。

段は飲み物を飲むと大きく息を吐く。

「ふぅ・・私が後20歳若ければねぇ・・」

「先生、あまり無理をなさらずに」

秘書官が優しく声をかけた。

「ありがとう・・だが、残りの時間が少ないのは間違いない。 できる限りのことはしておきたいよ。 君やその子供たちに良い国に生まれたと思ってもらいたい」

「先生、遷都の件ですが、私のところで賛同者名簿をまとめております。 多くの方が京都を推薦しております」

「うむ、そうだろうな。 それと、ギルドだが、日本にもかなりの支部ができたのではないか?」

「はい、正式な加盟要請がかなり多く上がってきております」

「日本という国を維持しつつ、ギルドを内包する・・あまり自由になり過ぎるのも・・なぁ」

「それと、アメリカの方で何やら高レベルの人材を集めている情報が入りました」

「なに?」

段は飲むのを中断し、秘書官の顔を見る。

「関君・・日本にはそういった要請は来ていないようだが・・」

「はい、おっしゃる通りです」

「・・・ふむ・・いよいよあからさまになってきたか・・」

秘書官は姿勢よく立ったまま、段を見つめている。


しばらく顎に手を当てて考えていた段が、椅子に深く座り直す。

「関君、やはり日本が独自の力で本当にやっていくしかない時が来たようだね」

段は目を閉じる。

そしてそのまま軽く寝息を立てていた。

秘書官がブランケットをそっと椅子の上からかける。


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