第86話 闘気
<中国>
かつて不動産競争などで近代的ビルが乱立した地域があった。
人もそれほど住むこともなく見捨てられた街。
王兄妹たちが街に入り、警戒をしながら進んで行く。
「ここはゴーストタウンだな・・人の気配が感じられない。 これほど立派な建物ばかりだというのに・・我が党首たちはこんな無駄なものにお金を使ったのか・・」
ファンは兄の横顔を見ていた。
兄の顔つきが変わる。
同時に仲間から報告を受けた。
「王さん、前方5キロほどのところに政府軍がいるようです。 規模は2個大隊(約1200名)ほどかと・・それに中主席の姿も見えるそうです」
「そうか・・」
「どうします? この街で迎え撃ちますか?」
「そうだな・・こちらは200名ほどしかいない。 とはいえ、皆が高レベルだ・・迎え撃とう」
王兄はそう答えるとファンを見つめる。
ファンは何も言わずうなずく。
◇
<中主席>
戦車に搭乗し、中主席は落ち着いていた。
「閣下、間もなく敵と遭遇致します。 失礼ながら後方で指揮をお願いします」
中主席は嫌な顔をすることなく答える。
「君、指揮官が陣頭に立たずにどうするというのだ。 私が先陣を切る」
大隊の指揮官は驚いた。
まさか政治家が戦闘の現場の、しかも陣頭で進んで行くという。
今まで聞いたことがない。
「か、閣下・・我が国の英雄に、もしものことがあれば、私は自分を許せません。 ですから・・」
「君ぃ、だからこそなのだ。 問題はない」
中主席は、今度は嫌な顔をする。
大隊指揮官は、もう言葉を出さなかった。
そして、そんな中主席の言葉と態度に感動していたのは事実だった。
!
「敵をスコープに捉えました。 いかがいたしますか?」
砲撃手から報告が入る。
指揮官もその映像を確認する。
何やら文字を書いた旗を持っている。
中主席もその映像が気になったようだ。
「敵は何を主張しているのかね?」
映像がアップされる。
『何故、香港を滅ぼしたのか?』
大隊長は映像画面と中主席を何度か交互に見ていた。
「ふむ・・この者は香港の生き残りというわけか・・」
「閣下・・いかがいたしますか?」
大隊長の言葉に中主席が少し嫌な顔をする。
「君、私が軍事に指揮など出せると思うかね? だが、この国にかつては資本主義に毒された地域があったな。 今はその病巣はなくなったと思ったが・・どうかね?」
中主席の言葉を受け、大隊長は大きくうなずく。
「撃て」
大隊長の言葉と同時に、戦車隊が砲撃を開始した。
スコープに捉えたのは王兄ただ一人だった。
王の部隊で最も高レベルな存在、レベル29。
中主席、レベル27。
王兄は自分の周りに闘気を放っていた。
スキルに闘気を操るものがあった。
幼少時より形意拳の流れを学んでいたのが役だったのだろう。
それまでは感じることしかできなかった『気』が視覚化できる。
もはや疑うことはない。
自分はこの拳で戦っていくと確信できた。
それがさらに自身の能力を向上させている。
王兄は思う。
我らが元首は話を聞くこともできないという訳か。
共産主義などという、特権階級の楽園。
俺は事実を確かめに来たのだ。
本当に香港を壊滅させる指示を出したのは、あなたなのかと。
戦闘をするために来たのではない。
王兄は戦車からの砲弾が着弾する中、一応は直撃を避けながら前へと落ち着いた足取りで歩いて行く。
そう、弾道が見えるのだ。
正確には、見えるというよりその闘気によって飛来するものが感じられる。
王兄の周りに近づくものすべてが手に取るように捉えられる。
確実に自分に到達するものだけを避けていた。
◇
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