第86話 闘気


<中国>


かつて不動産競争などで近代的ビルが乱立した地域があった。

人もそれほど住むこともなく見捨てられた街。

王兄妹たちが街に入り、警戒をしながら進んで行く。


「ここはゴーストタウンだな・・人の気配が感じられない。 これほど立派な建物ばかりだというのに・・我が党首たちはこんな無駄なものにお金を使ったのか・・」

ファンは兄の横顔を見ていた。

兄の顔つきが変わる。

同時に仲間から報告を受けた。

「王さん、前方5キロほどのところに政府軍がいるようです。 規模は2個大隊(約1200名)ほどかと・・それに中主席の姿も見えるそうです」

「そうか・・」

「どうします? この街で迎え撃ちますか?」

「そうだな・・こちらは200名ほどしかいない。 とはいえ、皆が高レベルだ・・迎え撃とう」

王兄はそう答えるとファンを見つめる。

ファンは何も言わずうなずく。


<中主席>


戦車に搭乗し、中主席は落ち着いていた。

「閣下、間もなく敵と遭遇致します。 失礼ながら後方で指揮をお願いします」

中主席は嫌な顔をすることなく答える。

「君、指揮官が陣頭に立たずにどうするというのだ。 私が先陣を切る」

大隊の指揮官は驚いた。

まさか政治家が戦闘の現場の、しかも陣頭で進んで行くという。

今まで聞いたことがない。

「か、閣下・・我が国の英雄に、もしものことがあれば、私は自分を許せません。 ですから・・」

「君ぃ、だからこそなのだ。 問題はない」

中主席は、今度は嫌な顔をする。


大隊指揮官は、もう言葉を出さなかった。

そして、そんな中主席の言葉と態度に感動していたのは事実だった。

「敵をスコープに捉えました。 いかがいたしますか?」

砲撃手から報告が入る。

指揮官もその映像を確認する。

何やら文字を書いた旗を持っている。

中主席もその映像が気になったようだ。

「敵は何を主張しているのかね?」

映像がアップされる。


『何故、香港を滅ぼしたのか?』

大隊長は映像画面と中主席を何度か交互に見ていた。

「ふむ・・この者は香港の生き残りというわけか・・」

「閣下・・いかがいたしますか?」

大隊長の言葉に中主席が少し嫌な顔をする。

「君、私が軍事に指揮など出せると思うかね? だが、この国にかつては資本主義に毒された地域があったな。 今はその病巣はなくなったと思ったが・・どうかね?」

中主席の言葉を受け、大隊長は大きくうなずく。


「撃て」

大隊長の言葉と同時に、戦車隊が砲撃を開始した。

スコープに捉えたのは王兄ただ一人だった。

王の部隊で最も高レベルな存在、レベル29。

中主席、レベル27。


王兄は自分の周りに闘気を放っていた。

スキルに闘気を操るものがあった。

幼少時より形意拳の流れを学んでいたのが役だったのだろう。

それまでは感じることしかできなかった『気』が視覚化できる。

もはや疑うことはない。

自分はこの拳で戦っていくと確信できた。

それがさらに自身の能力を向上させている。


王兄は思う。

我らが元首は話を聞くこともできないという訳か。

共産主義などという、特権階級の楽園。

俺は事実を確かめに来たのだ。

本当に香港を壊滅させる指示を出したのは、あなたなのかと。

戦闘をするために来たのではない。

王兄は戦車からの砲弾が着弾する中、一応は直撃を避けながら前へと落ち着いた足取りで歩いて行く。

そう、弾道が見えるのだ。

正確には、見えるというよりその闘気によって飛来するものが感じられる。

王兄の周りに近づくものすべてが手に取るように捉えられる。

確実に自分に到達するものだけを避けていた。


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