第85話 帰還


ジョーのロングソードがケンタウルスを袈裟切りにしようとする。

ケンタウルスは弓でガード。

弓に剣が当たると、ジョーはそのまま剣を放した。

!!

同時に光る左腕でケンタウルスの身体に触れようとする。

ケンタウルスも思わず右腕でジョーの左腕をガードしてしまった。

ジョーの光る左腕が触れた瞬間、そのところからケンタウルスの右腕が崩壊していく。

!! 

「な、こ、これは・・」

ケンタウルスは思うよりも先に行動していた。

左手の弓を放し、その手刀で右肩から自分の腕を斬り落とす。

同時に前足でジョーを蹴り飛ばしていた。

ジョーはそのまま吹き飛ばされていく。

ケンタウルスの切り落とされた右腕は、光の粒になって拡散していった。


吹き飛ばされたジョーにサラが駆け寄り、肩に担ぐ。

「マイヒーロー・・」

ジョーは気を失っているようだ。

サラはそのまま振り返りもせずに、この6階層から脱出をした。

もし振り返る素振りでも見せたら、その隙をつかれてケンタウルスに掴まっていたかもしれない。

賢明な判断だったろう。


後ろ脚を捉えていた黒い影も無くなり、ケンタウルスはサラ達が消えた魔法陣を見つめる。

「忌々しい人種め・・ふぅ・・」

ケンタウルスは怒気を膨らせることなく落ち着く。

右腕の方を見つめて目を閉じる。

「右腕が無くなったのはおしいが、あのままであったならば身体まで崩壊していたかもしれぬ・・あの人種のスキルか・・」

ケンタウルスは目の前に落ちているロングソードを思いっきり踏み抜いた。

バキーーン!

ロングソードが真っ二つに折れる。

地上に出て戦闘となれば、我の本来の力が発揮できぬ。

それに人種も妙な力を得たようだ。

当分は休養となろう・・だがあの人種・・忘れぬ。

ケンタウルスはゆっくりと6階層を歩いて行く。


<サラ>


サラは地上へと戻ってきていた。

魔法陣に触れ、すぐに転移できたようだ。

周りを確認しつつ、どこか座れる場所を探していた。


自分の膝の上にジョーの頭を乗せ、そっと草の上に寝かせる。

ジョーの頭を撫でながらサラは回復スキルを使用。

ジョーの傷が急速に回復していく。

「あ、あぁ・・サラ・・すまない」

ジョーは目を覚まし、そのままサラの膝枕で目を閉じる。

「マイヒーロー、無事で何よりです」

「すまない・・」

ジョーは謝罪の言葉を繰り返す。

「全くです。 本当に気を付けてください。 もう少しで死ぬところでしたよ」

言い返す言葉が見つからない。

ジョーは目を閉じたまま会話をする。

「あの魔物・・僕のスキルが通じなかった・・いや、やつの後脚を絡ませることはできたし、右腕も奪うことはできた。 だが、根本的にこちらが弱すぎた。 ダンジョンは恐ろしいところだな・・それに、これからの人の生き方を考えねばなるまい。 あんな化け物がこの地球上に存在しているのだ。 もう国家間の争いなど言っている時ではない」

誰に話しているのか・・まるで独り言のように話していた。

サラは優しくジョーの頭を撫でる。

「マイヒーロー・・あなたが無事でよかったです」

「サラ・・」

「私には国とか政治とかはよくわかりません。 ですが、仲間というのはわかります。 そしてそれらを守りたいとも思います。 ですからマイヒーロー・・ずっと私のマイヒーローでいてください」

サラの目から大粒の涙がボロボロとこぼれていた。


ジョーは返す言葉が見つからない。

・・・

しばらく沈黙の後、「すまない」とだけ言葉を出すことができた。


ジョーたちは無事ハワードのところに帰還。

ハワードは普通に帰って来たジョーを見て、ホッと胸をなでおろす。

ジョーはダンジョンについて説明。

ハワードの顔がだんだんと引きつったようになり、その情報は州知事、その他周辺の州、国へと共有されていった。


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