第84話 ケンタウルス


魔物の歩む速度は変わることなく、ジョーたちの前方にやってきた。

既に戦闘範囲内だ。


ジョーがその魔物を見つめながら言葉をかける。

「私の言葉が理解できるかね?」

魔物が笑ったように見えた。

「理解できるかと来たか・・こちらの台詞を取られたな。 お前たちがここにいるということは、あのオーガたちは役に立たなかったようだな」

魔物は背中から大きな弓取り出し、左手に持ち直していた。

「私はジョーと言う、君があの人間たちを積み上げたのかね?」

魔物は不思議そうな顔をすると、大きく笑う。

「積み上げる? フフフ・・あはははは・・なるほど、なるほど、あの人間たちのことか。 積み上げたのは私ではない。 ただ、人間を集めると他の人間が集まってくると忠告はしたがね」

「ふぅ・・最後に言っておく。 命というものは、粗末に扱うものではない」

ジョーの言葉に、明らかに怒りがこもっていた。

「フフフ・・最後? おかしなことを言う。 貴様ら人種は、他の種族を食べたりはしないのかね?」

「生きるために食べることはある。 だが・・」

ジョーの言葉を遮り、魔物は言う。

「貴様ら下等種の言説など、どうでもいい。 貴様のその目は、私に敵対するということだろうか?」

「敵対はしないさ・・ただ、貴様をほふるだけだ」

ジョーはゆっくりとロングソードを構える。


「ククク・・アッハッハッハ・・正気か? 貴様らの言葉で言えば、神と称される我だぞ。 かつて地上に出た時に、メスを捧げてきた連中もいたが、趣味が悪いな人種は・・」

魔物はそう言うと、弓をつがえていた。

そのまま引き絞り、矢を放つ。


ジョーに向けて、太い光の矢がまっすぐに走る。

ドン!

ジョーの足下に光の矢が刺さる。

その矢を中心に光の円が広がって行く。

直径10mくらいに広がっただろうか。

その円から光の柱が伸びた。

光の円柱だ。

魔物は次の矢を番えている。

またも同じようにジョーに向けて矢を放つ。


今度は矢が地面に刺さらずに弾かれた。

魔物は焦ることもなく、ジョーの居た場所を見つめる。

「ふむ・・珍しい人種がいたものだな。 我の矢を弾くなど・・下等種と言えども進化するということか」

光の柱が収束すると、黒くすすけたジョーが現れた。

自分の前にロングソードを突き刺すと、肩で息をする。

!!

「ジョ・・マイヒーロー!!」

サラは思わず叫んでいた。


「な、なるほどな・・私の記憶が間違えていなければ、貴様はケンタウルスという名前で呼ばれている。 神話などに出てくる神獣だ・・」

ジョーは明らかにダメージを負っていた。

「ふむ・・そんな名称がついていたのか? まぁ、呼び名などどうでもいい」

ケンタウルスはそういうと、チラッとサラの方を向く。

「人間、一つ選択をさせてやろう。 その女を差し出せば、このエリアからの撤退を許可してやる」

ケンタウルスは前足で何度か地面をかく。

「魔物よ・・その選択肢は存在しない」

ケンタウルスはジョーを見つめる。

「フフ・・つくづく人種というのは愚かな生き物だな。 命を粗末にするなと我に言わなかったか?」

ジョーは大きく息を吐くと、キッとケンタウルスを見つめる。


ダッ!!

大きく地面を蹴って、一直線にケンタウルスに向かう。

ジョーの左腕のところが金色に輝く。

そして、ロングソードにも光が満ちる。

「うぉぉぉ!!」

ジョーはその速度のまま、ケンタウルスに斬りかかった。


そんな大振り、しかも下等種の人の攻撃など当たるはずもない。

ケンタウルスは焦ることもなく後ろに下がろうとした。

!!

後ろ脚が動かない。

急いで自分の足元を見る。

「な、なに?」

黒い闇のような沼? 空間?

その黒いものにひざ下まで沈んでいた。

なぜ脚が沈んでいるのに気づかなかったのだ?

いや、それよりもこの前からの攻撃を躱さねば・・。


黒い闇、ジョーのスキル『アビス』によるものだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る