第83話 未踏の階層へ


<アメリカ>


ジョーたちは21名の死体を収容し、州の施設に帰還していた。

現場で起こったことの説明と事後処理を報告。

・・・

・・

「ハワードさん、先程も言った通り、これは完全な調査になる。 人数が増えても困るのだよ」

「し、しかし・・あなたとサラさんだけでダンジョンの調査とは、もし何かあったらどうされるのです」

ハワードが本気で心配してくれているようだ。

「だからこそだよ。 最悪、いなくなるのは俺達だけでいい。 それにそうなる前に撤退するよ」

ジョーに悲壮感はない。

「う~む・・本当に命を優先してくださいね」

ハワードは念を押した。

無論、ジョーという武力がなくなるのが怖いからだ。

「フフ・・そのところは心得ているよ、なぁサラ」

「はい。 マイヒーローと私の逃げ足はチーターよりも速いです」

サラが笑顔で返答する。

「・・わかりました。 では、気を付けて行って来てください」

ハワードの言葉を受けると、すぐに席を立ち、ジョーとサラは遺体を回収したダンジョンへ向かう。


あの不自然なオーガたちの行動。

どうも腑に落ちない。

オーガたちにそれほど知能があるとも思えない。

それにいくらオーガキングたちが相手だといっても、21人ものレベルのある人間が山積みにされるはずがないと、ジョーは考えていた。


間もなく現場に到着。

ジョーはダンジョンを見つめ、ゆっくりと入って行く。

サラも黙ってついて行った。

・・・

しばらく歩いていると、ジョーが言葉を出す。

「ふむ・・やはり普通のダンジョンの感じだが・・サラ、君はどう思う」

「はい、私の考えもマイヒーローと同じです」

「フフフ・・サラはいつからエスパーの能力に目覚めたのかな? 僕の考えをお見通し・・というところかね?」

ジョーがからかうように笑っていた。

「マイヒーロー、私も不思議に思っていたのです。 オーガたちが人の山を築くなど、どうしても考えられません。 何かオーガを従えるような魔物がいるのではないかと推察できました」

「なるほど・・僕と同じだね。 そして、オーガ以上の存在・・逃げるにしても、僕たち以外では無理だろうしね」

基本・・というか、魔物はダンジョンから出ることはない。

自身のエネルギーの源となる魔素が、地上などでは薄いからだ。

本来の力の1/10くらいしか出せないだろう。

氾濫などになると、ダンジョン周辺は魔素で溢れかえるので、条件が違うが。


ジョーはサラの見識にうなずくと共に、ダンジョンを進んで行く。

魔物はまだ現れていない。

無人のダンジョンをひたすら進んで行く。

それが余計に不気味さを増す。

・・・

・・

キースたちの遺体を回収した場所に到着。

特に何もないし、何も感じない。


ジョーはゆっくりと先を見つめ、次の階層へと向かう。

どの階層も、レベルの高い魔物との遭遇はなかった。

不気味さを感じつつも歩みを止めることはしない。

まるで何かに誘導されているかのようだ。

そして、ジョーたちは6階層に到着していた。


「マイヒーロー、このダンジョンの6階層に入るのは初めてです・・妙に重い感じがします」

サラはそう言うと、光の粒を上空へ飛ばし、明かりを確保する。

これで2時間くらいは視界に不自由しなくていいだろう。

敵に見つかる可能性も上がるが、この位置ならばすぐに撤退できる。

ジョーが前を向いたまま動かない。

「・・マイヒーロー・・」

サラはそこまで言葉を出すと口をつぐんだ。


圧倒的と言う言葉が相応しいのだろうか。

自分が呼吸しているのかどうかも怪しい。

その姿を見ると、何も考えられない。

いったい何がいるの?

わかっている。

魔物がいる。

私たちの前方50mくらいのところだろうか。

私の認識が甘かった。

一歩後ろへ下がれば、魔法陣に入って脱出できると思っていた。

だが、その一歩を踏み出す前にやられるような感覚がある。

とても重苦しい雰囲気だ。

サラはチラッとジョーを見る。


ジョーは焦る感じもなく、ただ魔物を見つめていた。

その魔物がゆっくりと身体を起こし、私たちの方へ近づいてくる。

馬に乗っているのかと思ったが、違うようだ。

上半身は人型のようだが、下半身が馬のような体型。

神話などで聞いたことのある魔物だ。

名前は思い出せない。

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