第77話 正論だ
<ハヤト>
素材班には朝のミーティングがある。
俺は時間の15分前に事務所に入る。
昨日、オーガジェネラルで真田助教と避難した同期の人たちも来ていた。
俺が横に並ぶと話しかけてくる。
「おはようございます。 村上さんでしたね・・僕は菊池といいます」
「あ、おはようございます。 菊池さんですか・・」
菊池はにっこりと笑うと、話を続ける。
「村上さん、昨日オーガジェネラルと戦われたのですか?」
「い、いえ・・俺はただ・・居ただけです。 そして、ぶっちゃけて言うと、気絶してました」
俺の言い訳を信じてくれるかどうか半信半疑だ。
「そ、そうですか・・それは何ともコメントのしようがありませんね・・お疲れ様でした」
菊池は素直に受け入れてくれたらしい。
楠木班長が入って来る。
「おはようございまーす。 皆さん、昨日はお疲れ様でした。 今日も素材回収に向かいます。 よろしくお願いします」
楠木班長が明るい声で話していた。
・・・
朝の朝礼が終わると、早速グループ分けをして、ダンジョンへと向かう。
今日は、昨日とは違うダンジョンだ。
◇
<スイス>
ポニーテールの髪を揺らし、左肩に銃を吊り下げ、颯爽と歩いている後ろから声を掛けられる。
「マリア様、何かお話があるとかで、門衛のところに人が面会に来ておりますが・・」
マリアは風を纏っているような感じで、優しく振り返る。
「ありがとう、今から行くわ」
マリアの所属する町というか小集団。
かなりの規模になってきていた。
完全なゲーティッドコミュニティといってもいいかもしれない。
周囲を城壁で囲み、外から中へは簡単には侵入できない。
マリアが門衛の詰め所に入る。
中ではスイスの行政官だろうか、男2人と女1人が簡易的な机を前に椅子に座っていた。
詰め所の衛兵にマリアが挨拶すると、行政官たちの前にマリアが座る。
その後、この小集団の長がマリアの横に座った。
訪れた行政官たちが友好的な笑顔で話し始める。
「ダニエル代表・・言いにくいことなのだが、この集団の規模が大きくなり過ぎている」
「うむ・・承知している」
行政官たちから笑顔が消える。
「ダニエル代表、今後どう動くつもりなのかね?」
「フッ、貴公らの心配している行動は取らないつもりだ」
「わ、我々の心配しているとは・・」
ダニエル代表が軽く笑う。
「フフ・・我々が国を乗っ取ると思っておられるのだろう」
「「・・・」」
行政官たちは言葉が出ない。
「我々は同じ国民だ。 そこは信じてもらいたい。 ただ、皆が同じ方向を向いているとは限らない。 こんな世界になってしまったのだ。 むしろ一つの国に無理に所属しなくてもよいのではないのかな?」
「ダ、ダニエル代表・・それは乱暴な言葉だ。 宣戦布告とみなされる恐れもある」
「ハハ・・これは失礼した。 だが、武力が発言力ならば、世界も同じ方向で動くことになるだろう。 既にイギリスやフランス、スペインなどはギルドネットワークを通じて小さな集団が乱立していると聞く。 少なくとも我々は、自国を裏切ることはしたくない」
ダニエル代表は強気な発言だ。
マリアは何も言わずに静かに座っている。
「う~む・・私たちも敵対したくて、こんな話をしているのではない。 ダニエル代表の仰る通り、周辺国が怪しいのだ。 それで協力を得たいと思って訪れたのだがね」
ダニエル代表も気を引き締めて答える。
「うむ、冗談が過ぎたようだ・・許してほしい。 それで、圧力をかけてきているのは、例によって北の国かね?」
行政官たちがお互いの顔を見合わせて答える。
「じ、実は・・周辺国そのものなのだ。 いや、国かどうかも怪しい。 代表が言われているように、ギルドを通じて我々の国のシステムの介入してこようとしているのだ・・」
行政官たちがダニエル代表に愚痴を言いに来たような感じになっていた。
ダニエルは静かに聞きながら思う。
それは既に時代が変化したということだろう、と。
国という実体の怪しいものを絶対視してどうするというのか。
人がいるから国がある。
「うむ・・貴公らの言うことはもっともだ。 私の方でもアプローチして来たときには、主権侵害はしないように主張するよ。 貴重な情報をありがとう」
ダニエルは相手を刺激することなく丁寧に扱い、帰ってもらうことにした。
行政官たちが帰還後。
「マリア君、どう思ったかね?」
「さぁ・・私には政治はわかりません。 ただ、私たちの集団が危害を受けることになれば、戦うだけです」
マリアの言葉にダニエルは笑うしかなかった。
正論だからだ。
「ハハハ・・全くその通りだね。 私もこの町が好きだ。 時代が変わったのだ・・それも急激に。 もし、国という大きな組織がなくなれば、それまでだったということだろうね」
ダニエルも、今は難しく考えることはやめることにした。
◇
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