第76話 鈴木と段
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香港が焦土と化してから、兄妹でダンジョンに潜りっぱなしだった。
2人とも、レベルは28となる。
香港の街は以前よりもきれいに復興していた。
建物などをあっという間に建てたりする、魔法のようなことができる者たちもいる。
かつての国の運営に従わないものたちが集まって街を作っていた。
ほとんど小国といってよいくらいの規模になっている。
高所から街を見下ろす者がいる。
「
王兄妹の兄がそこまで言葉を出した時だ。
妹の
そして、兄の目をジッと見つめている。
言葉を失ったような感じだ。
こちらの言っていることは完全に理解している。
兄も特に追求はしなかった。
ただ、妹が
ファンの目が物語っている。
私も一緒に行くと。
「
兄の言葉を聞いても、その眼差しは変わらない。
・・・
ファンの手に自分の手をそっと添えながら、しばらく無言でいた。
そして、軽くうなずく。
「そうか・・ならば、兄の姿を見届けるがいい。 香港を焦土と化した連中に報いをくれてやろう・・」
◇
<ハヤト>
俺は内閣調査隊を早くも辞めようかと考えていた。
まだ1日しか経過していないんじゃないかって?
そう・・俺が間違えていた。
君子豹変す。
君子は良いと思ったことを、即時実行するから豹変して見えるらしい。
俺はただ単に人恋しくなったり、もしかして何らかのグループでお山の大将みたいな気分を味わいたかっただけかもしれない。
まずは楠木班長に話さなければいけないだろう。
ベスタが言うように、ダンジョンで行方不明でもいいが、少し面倒な気もする。
現に、命が惜しければ辞めていいと言われているしな。
・・・
よし、後で楠木班長に聞いてみよう。
◇
<とあるシティホテルの会議室>
身体つきは年配の動きだが、その目つきは猛獣を想起させる。
片手に杖を持ち、テーブルにつく。
その男の人が座ったのを確認すると、ガタイの良い男2人は壁際まで下がった。
どうやらこの年配者のボディガードらしい。
「鈴木先生、どうでしたかな? このレベルとかいう変な能力は?」
座った対面にいる、こちらも年配の男に語りかけていた。
「フフフ・・段先生、私もゲームを
「なるほど、それは結構。 アメリカや中国では核を使った事件が発生していましたが、どんなものですかな?」
段と呼ばれる男は確かめるように聞く。
「その件ですが、いくらレベルがあれども、核の前には無力なようですな。 生き残りの情報は入っておりません」
「そうでしょうなぁ・・我が国ではそれほどの暴動は発生しておりませんが、過激な事件も発生していると聞きます。 また、最近はギルドなるものが出現し、情報を集めているとか・・まぁ、官僚君たちがうまくやってくれているようですが」
「段先生、よくご存知ですな。 私のところにも逐一情報を送ってきてくれますな。 ただ、個人の力で国に
「さすが鈴木先生、ありがとうございます。 それはそうと、鈴木先生は中主席とは長いお付き合いでしたな。 私のところに入っている情報によりますと、何やら英雄になられたとか・・さすがですな」
段の言葉に鈴木は自分が褒められたような表情をする。
「えぇ、そうなんですよ。 何せ、自らが陣頭指揮を
「そうですか、そうですか・・それは結構。 それに香港が新たにネオ香港と称して復興しておりますな」
「段先生・・そこまでご存知でしたか・・調べさせたところによると、本国と一触即発かという話です」
「ふむ・・」
「ま、ひとひねりで終わりでしょうが・・フッフッフ」
鈴木はまるで自分が英雄にでもなったような口ぶりだ。
段はうなずくと、椅子に深く座り直して一考する。
なるほど・・この鈴木は完全な中国寄りの人物。
日本はバカな指導者の下、言葉を取り繕って労働力を外注していた。
何のために言語が存在し、文化が存在するのか。
自分達の集団を守るためだろうに。
それがグローバルなどと日本の存在を危うくしている。
かつて日本という国に、日本人という種族がいました、とでもしたいのか。
冗談ではない。
段は鈴木と他愛ない会話を繰り返すと、ゆっくりと席を立つ。
鈴木は段の背中を見て思う。
なるほど、かつて段という切れ者の政治家がいたのだな、と。
◇
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