第78話 離脱


<ハヤト>


回収には楠木班長と真田助教、昨日は見ていなかった渡辺教官の3つのグループで行うことになった。

俺は楠木班長のグループに組み込まれて探索に向かう予定だ。

グループは大体5人くらいでまとまっている。

「楠木班長、もう昨日のような魔物は出て来ないですよね?」

若い新人が聞く。

「そうね・・今日のところにはいないと思うわ。 まぁ、新人さんに慣れてもらうために危険なダンジョンは選んでないつもりなのだけれど・・例外もあるから」

「そ、そうですか・・」

楠木班長はフレンドリーに接してくれる。

みんな気負いすることなく、気楽な雰囲気だ。


ダンジョンもそれほど強い魔物も出現することなく、レベル10程度あれば死ぬことはない。

やはり慣れさせるためなのだろう。

皆が調子に乗って来たのか、魔物の討伐と素材回収を効率よく行えるようになってきていた。

遠足気分のごとく、楽しそうだ。

俺は、このタイミングで楠木班長に話してみる。

「楠木班長」

楠木班長が微笑みながらこちらに振り返る。

「なに?」

「実はですね・・私、やっぱり調査隊を辞めたいと思っています」

俺はド直球で結論から話してみた。

「え?」

当然、楠木班長が驚いている。

「う~ん・・村上さん、この素材回収が終わったら、時間をもらえるかしら?」

「は、はい。 こちらこそよろしくお願いします」

楠木班長の言葉を聞き、とりあえず俺は少しホッとした。

ただ、班長にしてみれば、余計な案件が増えただろうな。


今回の素材回収は、レベルの高い魔物も現れるでもなく、本当に新人ための研修みたいな感じだった。

作業内容が理解でき、皆それなりに自信もついたとみえる。

ただ、魔石回収にはさすがに引いていた。

女の子よりも男ばかりがゲロを垂れ流していたからな。

何度か繰り返すと、それなりに耐性はつくようだ。


お昼過ぎに帰投し、遅めの昼食を食べ、少し休憩の後、素材の振り分け作業などになった。

16時20分。

今日の作業は終了となる。

皆、解散となるが、俺は楠木班長に呼ばれている。

素材班の事務所に来ていた。


「どうぞ」

楠木班長に促され、俺はソファーに座った。

「村上さん、何か飲む?」

「い、いえ、大丈夫です」

「そ・・じゃあ、早速聞かせてもらえる?」

楠木班長が俺の前に座った。

「え~・・そうですね、何というか・・正直に話します」

俺は変な言い回しはやめて、直球で話すことにした。

「実は・・この内閣調査隊に入ると、レベルが上がるのかと思っていました」

「うん、それで?」

「ですが・・昨日、その・・坂口団長と少しお話することがあったのです。 それで・・はっきり言えば、失望しました」

「ハハ・・村上さん、ほんとにはっきりいうわね。 ま、その方が気持ちいいけど・・」

「すみません」

「ううん、いいの、事実だから。 そうねぇ・・村上さんが今辞めても、問題はないわ。 でも、あなたの実力は知られているから、もし国外に行かれるなんて話になると面倒なことになるわね」

楠木班長もはっきりと言ってくれる。

「な、なるほど・・私も日本以外に行く気はないですけど、人の見方はわかりませんからね」

「そうね・・で、辞めてどうするつもり?」

「はい、完全に答えは出てないのですが、今まで通りの生活で十分かなって思ったりしています」


俺はそう答えながらも、少し考えていたこともある。

本当に国というものを信頼していもいいものかどうか。

こんな世界になってしまった。

個人の力で物事が動く世界だ。

かつてのお金の世界ではない。

しかし、そうは思っても実際に実感できるまではタイムラグがあるだろう。

ならば、それまでに新しいシステムを模索してもいいのではないのか。

今の世界だって、戦後70年くらいで構築した世界だ。

たった、それだけの時間世界なのに、絶対的な世界だと、どこかで教え込まれていた。

勉強して偏差値の高い学校へ行き、いい会社に就職しろ。

いい会社ってなんだ?


レベルというシステムがある。

それがそのまま力となる。

ギルドネットワークなども出来上がっていると聞く。

・・

・・む・・

むら・・むらか・・

「むらかみさん!」

楠木班長が俺を覗き込むように見ていた。

「あ、え? あぁ、すみません。 少し考え事をしていました」

「大丈夫?」

楠木班長、顔が近いです。


「は、はい、大丈夫です・・で、何でしたっけ?」

「はぁ・・あのね・・あなたの今後よ」

「そ、そうでした。 えっとまた元のような生活でと・・ダメですか?」

俺は軽く答える。

「う~ん・・私にもはっきりとは言えないけど、村上さんの素養は把握されているわけでしょ? 何かあればすぐに招集されると思うし・・というか、もう一般人ではないわよ。 おそらく・・いえ、確実にマークが付くと思うわ」

「ほ、ほんとですか? う~ん・・」

俺がやったことって・・ヤブヘビの諺通りだぞ。

内閣調査隊に入って、自分の存在をさらけ出してしまった。

アホだ。

もっと地道にダンジョンだけを回っていれば良かったんだ。

はぁ・・・。


「村上さん、もの凄くやる気のない感じがするのだけど・・辞めるのを取り消す?」

楠木班長が優しく聞いてくれる。

いい人だな、ほんとに。

「そうですねぇ・・楠木班長、本当にここではレベルが・・いや、やはり個人で生きていく方が、俺には合っているように思います」

「難しい選択ね。 どちらにしても、今までの常識では考えれない世界になっているわ。 国の組織にしても手探りで歩いているようなものよ。 どれが正解かわからないし、そもそも正解があるのかどうかも怪しいわね・・うん、わかったわ。 でも、承認が出るまでは少し時間がかかると思うわよ」

「ありがとうございます」

俺はスッと席を立ち、素直に楠木班長にお礼を言った。


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