第74話 全力じゃねぇのかよ!


俺がヨロヨロと立ち上がると、坂口団長が驚いていた。

「ふ~む・・村上さん・・あなた不死身のスキルでも持っているのですか?」

坂口団長がゆっくりと歩きながら俺の方へ近づいてくる。

俺も徐々に回復してきた。

「さ、坂口団長・・これって八極拳の技・・ですよね」

「はい、よく知ってますね。 まぁ、まだ全力ではないのですがね」

全力じゃねぇのかよ!

俺は心で絶叫だ。


坂口団長は興味深そうに俺を見つめる。

「ふむ・・もう回復してきていますね。 いったいどんなスキルなんです?」

俺は何だか警戒するのがバカらしくなってきた。

「ハハ・・私のスキルですが、ソロで活動できるように回復系のスキルを取得したのですよ」

坂口団長が少し目を大きくしてうなずく。

「なるほど・・いやね、僕もぶっちゃけていいますけど、最初の技は『縮地』といって、速度を究極的に高めるものです。 その速度から突きを繰り出したのですが、かわされました」

俺は黙って聞いている。

「それで、今度は『神威』というスキル名称がついていますが、基礎能力を爆発的に高めたりできるものです(実際はそれだけではないが)。 それでもう2段階ほどギアを上げて攻撃してみたのですが・・いくら全力ではないとはいえ、ここまでダメージが減殺されているとは思ってもみませんでした」

「さ、坂口団長・・もし、全力で先程の技を使ったらどんな具合です?」

俺は興味本位に聞いてみる。

「う~ん・・まだ使ったことないので推測でしか言えませんが・・屋久杉程度なら木っ端微塵でしょうね。 何せ、わざわざ前方からある程度衝撃を与えておいて、背後からも同時に強烈な衝撃を加えるのですから・・それよりも、村上さんが今平気で話しているのが信じられないのです。 僕の予想では、今頃背負って庁舎に帰っているところでしたから・・」

マ、マジか・・俺は少し引く。

「坂口団長・・それ、怖いんですけど」

「アハハ・・まぁ、死ぬことはないと思っていましたし・・でも、スキルってお互いに凄いものですね。 ありがとうございます」

「い、いえ・・こちらこそレベルにおぼれてしまうところでした・・勉強になります」

俺の言葉を聞きながら、坂口団長が俺の身体をチェックする。

・・・

「ふむ・・凄いですね。 やはり村上さん、不死身ですか? これはこれで脅威ですね」

確かに、俺の身体はほとんど回復していた。

ただ、体力は自然回復しかない。


俺が回復するまでの少しの間、坂口団長との会話を楽しむ。

この先の日本のことや、自分たちはこれからどうしたいのかなど。

・・・

・・

「・・団長は、このまま調査隊で活動することになるのですか?」

「おそらくそうなるでしょうね・・家族がいますし・・あ、結婚はしてませんよ」

「そうですか・・私は団長の言葉を聞いて少し考えています」

俺の言葉に、坂口団長が遠慮せずにどうぞと言って言葉を待ってくれている。

「・・実は・・やはり個人の方が良いのではないのかと思うようになりました」

・・・

・・

俺は思うままに話してみた。

確かに、中田とのレベル上げが楽しかったので、妙に人恋しかったのかもしれない。

だが、組織というものが嫌で辞めたはずだ。

それがまた組織に所属しようとしている。


今の俺ならわかる。

日本という国に育つと、その矛盾がわからない。

内側にいるから、教えられた常識を疑うことをしない。

例えば、法律があるが、それを絶対と思っているところがどこかにある。

被害者が本当に救われることはない。

国は、警察という暴力装置を利用して、国民にそのルールを守らせようとする。

誰の言葉だったか。

法とは、悪を裁くものではなく、違法を裁くものに過ぎない。

その通りだろう。


何て言うのか、国のシステムなんて、異世界なんかで街があり、そこに入るのにお金を払ったり、滞在するのにお金を徴収したりするシステムと同じだろ?

街が国になっただけじゃないのか?

その治安システムがギルドであり、警察のはずだ。

異世界やゲームでは、その街のルールが気に入らなければ、違う街に行けばいい。

現実世界ではそういう訳にはいかない。

まず、金がないからだ。


それがレベルというものが現れて、まさに俺が今考えているような世界になろうとしている。

いや、既になっている。

だからこそ日本はギルドネットワークに積極的にかかわろうとしているのじゃないのだろうか。

国というものが存続するために。

その国という器も、実際は一部の特権階級のためのものだろうが、それらが今までは金でどうにかなっていた。

それが崩壊してしまった。

その事実を一般市民に知られてはならない。

自分達の存在が危うくなる。


俺は、中心になるのは嫌だが、そういった異世界システム風の街に所属して生活するのもアリなんじゃないかと思うようになっていた。

そんな街が多く出現して、それぞれが提携して一つの大きなコロニーになれば、国となるだろう。

うまくまとめれないが、そんなことを坂口団長に話してみた。

・・・

・・

「村上さん・・そんな街が出来上がったら、すぐに呼んでくださいね。 即、移住します・・と、本音では思います。 ですが、極めて危険な思考ですね。 国などからすれば、即刻抹殺対象といってもいいでしょう。 それが今までの社会システムですが、レベルがあるがためにできなくなってきたのが現状ですね・・」

坂口団長が嬉しそうに言う。


俺たちはそんな話をしながら地上へと戻り、そのまま帰投となった。


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