第72話 団長に連れられて


「とにかく村上さん、これからよろしくお願いします」

坂口団長が笑顔で握手を求めてくる。

「こ、こちらこそよろしくお願いします」

俺の方が年齢が上なのに、終始、坂口団長が先輩のような気がした。

「あ、それから僕の知っている中でもう1人、調査隊に同じタイプの子がいるのですよ」

「ほ、ほんとですか? その・・ギフト組と呼ばれている、私たちと同じ時期にレベルが発現した人がいるのですね」

坂口団長がうなずく。

何でもその子は弓使いらしい。


「村上さん、もし嫌でなければ、少しあなたの実力・・といっては失礼ですね。 すみません。 どれくらいの力なのか知りたいのですが・・いいですか?」

坂口団長が申し訳なさそうに聞いてくる。

「え? えぇ・・そう・・ですね、私も明日まで時間が出来ましたし、目立たないところがあればお受けします」

「そうですか! ありがとうございます。 僕って結構格闘マニアで・・いろいろやってみたのですが、面白くて・・よろしくお願いします。 あ、場所は・・やっぱダンジョンかな・・」

「ダ、ダンジョンですか?」

俺が返答に困っていると、坂口団長が微笑みながらうなずく。

「村上さん、ここって防衛省でしょう?」

俺はうなずく。

「今の庁舎が立つ前って、知ってます?」

「確か・・市ヶ谷の駐屯地だったような・・」

「そうです・・三島〇紀夫が割腹自殺した庁舎もあったといいますよ」

坂口団長が嬉しそうに話しながら続ける。

「そして、その地下のPX(直売所)の横から、戦時中に皇族などが避難していた防空壕があったそうなんです」

「ほ、ほんとですか?」

「はい、今はないですけどね。 何でも当時に水洗トイレがあったみたいですよ。 ま、それはいいのですが、その更に地下にダンジョンが出来ているのですよ」

坂口団長がにっこりとしてうなずく。

「そうです、まだ外には公開されていません。 我々攻略組だけが攻略しているのです。 今の所5階層までクリアしています。 僕のナビさんが言うには10階層くらいはあるのでは? と言ってますが、それもわかりません・・・おっと、余談が過ぎましたね。 で、そのダンジョンではどうですか?」

坂口団長が微笑みながら片手で鍵をぶら下げていた。

「さ、坂口団長・・その鍵って・・」

「はい、ダンジョンに入る扉の鍵です。 僕、団長ですから」

俺は、坂口団長の顔を見ながら思った。

このダンジョンなら、もしかしてと・・。

だが、すぐに断念。


「村上さん、今、このダンジョンなら秘かにレベリングできると思ったでしょう?」

坂口団長が突っ込んできた。

「無理です。 完全に把握されていますよ」

俺は坂口団長の言葉を聞きながら、そりゃそうだよなと納得。

「ま、僕が使う分には、それほど制限はないのですがね。 ただ、深く潜るには手続きが面倒なのですよ・・って、余計なことでしたね。 では、行きましょうか」

坂口団長と一緒に、俺は通路を歩く。

すぐに階段を降りて地下1階に来た。

「実は、ここが入り口なんですよ」

滅茶苦茶近かった。

普通の扉のようだが、鉄の重そうな扉だ。

坂口団長が鍵を差し込んでロックを解除。

ゆっくりと扉を押し開けて行く。


人が1人通れるくらいの通路が続いていた。

俺は坂口団長の後をついて行く。

扉はきちんと閉めた。

途中、坂口団長といろいろと話し合う。

村上さん、僕よりもレベルが上でしょうとか、どんなナビですか? とか。

・・・

・・

ダンジョン1階層に到着。

広い平原が広がっていた。

太陽があるわけでもないが、夕方っぽい感じの明るさだ。


俺たちは無言で距離を取って行く。


<ベスタとアストレア>


ベスタ:あなた、その人のナビゲーションシステムでしょう? よく進化できましたね。

アストレア:あなたこそ、すごく成長していますね。 驚きです。

『『・・・・』』

ベスタ:なるほど・・了解しているわけですね。 お互いの能力は使わないということで・・。

アストレア:はい、了解しております。 ですが、あるじに危険が及びそうなときはストップさせていただきますよ。 あなたの主様は、私の主様よりもレベルが上のようですから。

ベスタ:それはこちらも同じです。 基礎能力では、あなたの主様は凄まじいですね。 本当に人間ですか?

アストレア:ありがとうございます。 我が主様はすべてにおいて完璧です!

ベスタ:・・なるほど・・それは素晴しいです。 我があるじ様は自己鍛錬のみですからね・・ですが、私は主様と婚姻関係になっておりますよ。

アストレア:え? えぇ~!! な、なんですってぇぇぇ! 私もまだそこまで契約していないというのに・・うらやまし・・と、これは失礼しました。

ベスタ:そ、それでは、よろしくお願いします。 あ、まだ自己紹介しておりませんでしたね。 私はベスタと名乗らせてもらっております。

アストレア:ベスタさんですね。 了解しました。 私はアストレアと命名されております。 以後、お見知りおきを。

ベスタ:フフフ・・。

アストレア:フフフ・・。


ベスタとアストレアが念話のような会話を繰り広げていた。


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