第71話 同族


コンコン・・

「お邪魔しまーす」

皆がドアの方を注目。

!!

「攻略組の坂口です・・失礼しますね」


坂口が一歩事務所に入って来た瞬間に、ベスタが俺に話しかけてくる。

『ハヤト様・・同族です』

!!

「は? 同族? どういうこと?」

俺も返答しつつも、意味がわからない。

『はい、あの坂口という人物・・私と同じシステムを持っています。 既に向こうも同じ情報を得ていると思われます』

「な、なにぃ~!」

俺は平静をよそおっていたが、もしかしたら驚いた表情をしていたかもしれない。


「さ、坂口団長・・いったいどうされたのですか?」

楠木班長がややうわずった声で話しかけていた。

もしかして楠木班長、お気に入りなのかな?

「うん、いきなり押しかけて申し訳ない。 実はね、オーガキングを倒したと聞いて、その情報をもらおうと思ってね」

坂口団長が微笑みながら言う。

感じがいい男だな。


坂口団長が部屋の中を見渡しながら、きっちりと俺にも視線を飛ばしてきた。

!!

な、なるほど・・俺は確信する。

俺だとバレてる感じだ。

坂口団長は、笑顔のまま楠木班長や真田助教などと話をしていた。

俺はすることがない。

・・・

・・

しばらくオーガキングの話で持ち切りだった。


すると、坂口団長が丁寧に挨拶をすると、部屋を出て行った。

特に俺に視線を飛ばすこともない。

「ベスタさん、いっちゃいましたよ、あの坂口って人・・」

俺はベスタに聞いてみる。

『ハヤト様、恐ろしい人ですね。 全くあの人のステータスがわかりません。 私と同等かそれ以上のパートナーを持っていると思われます。 無論、こちらも覗かせるようなことはありませんでしたが・・』

「マ、マジかよ・・そんな人物がいるのか?」

俺は驚く。

俺が最強などと思わないが、まさかそんなレベルがいるとは・・上には上がいるな。


楠木班長が少しあたふたとしながら言葉を出す。

「・・えっと、今日は私も疲れちゃったし、後は休養にするわね。 オーガキングの素材は他の人たちに任せて、解散しましょう」

「「了解!!」」

今回の演習で、事故? に巻き込まれた俺たちは、臨時的に休養となった。

班長の一存で、日程などどうにでもなるようだ。

結構自由な職場だな。

俺も遠慮なく休ませてもらおう。

俺達新人隊員は自分の宿舎へと向かう。

俺の同期? たちもオーガジェネラルの戦闘の後遺症だろうか、ほとんど言葉を出すものはいない。

・・・

これってこのまま帰っちゃっていいのかな?

俺はそんなことを思いながら、静かに通路を歩いて行く。

俺は小用を足してから帰ると伝えると、みんなはそのまま帰って行った。


俺がトイレから出てきた時だ。

!!

坂口団長が微笑みながら立っていた。

「こんにちは・・って、驚かせてしまいましたか?」

「い、いえ・・少しは驚きましたが・・どうされたのですか?」

俺も一応聞く。

「えぇ、あのオーガキングを倒したのは、あなたでしょう」

坂口団長がその笑顔を崩すことなく話してくる。


一瞬、俺は迷ったが正直に答えることにした。

どうせ、ベスタが明言しているんだ。

隠しても仕方ない。

「は、はい。 あの・・坂口団長・・もしかして・・全部、バレてます?」

俺はおそるおそる聞いてみる。

「ハハハ・・全部というほどじゃないけど、僕の持っているナビさん、アストレアっていうのですが、教えてくれるのですよ」

「な、なるほど・・では、あまり私が取り繕っても意味がなさそうですね」

坂口団長が握手を求めてくる。

俺もしっかりと手を握った。

「でも、まさか僕と同じような人がいるなんてね・・君は、素養検査で手を抜いたね」

「い、いえ・・はい、そうです」

坂口団長の言葉に俺は素直に答えた。

「なるほど・・ま、そんなに信頼できる組織じゃないしね」

坂口団長は結構辛口な言葉を出す。

「そ、そうなんですか・・というか、団長・・私は自分の実力を知られたくないのですよ・・」

俺は取りあえず重要な部分だけでも話しておこうと思った。

何故か、この団長は信用できる気がしたからだ。

・・・

・・

「フフ・・まぁ、そうだろうね。 僕の場合、実家まで押しかけられてしまったからね。 ま、僕も自分のことは全部公開はしてないけど・・でも、なんで調査隊に入ったんだい?」

坂口団長が聞いてくる。

「はい、個人では入れないダンジョンなんかがあると聞いたもので・・それに自分の知り合いも、調査隊に入ったものですから・・」

「あはは・・なるほどね。 それはだまされた部類だね」

「え?」

「いやね、国が抑えているダンジョンもたいしたことないのですよ。 それに、レベルもそれほど上がらないし・・取りあえずレベルのある人たちを集めるキャッチフレーズじゃないですかね」

坂口団長の言葉に俺は驚いた。

「だ、団長・・それは本当ですか? レベルがあまり上がらないって・・」

俺の質問に坂口団長が顔を近づけて来てやや小声で話す。

「そうなんですよ。 おそらく個人の力を強くしたくないのでしょうね。 組織が危うくなるし・・そうかといって全体的にもレベル上げをしようという気もない。 だからといってある程度の強さがないと、諸外国から侵略されてしまう・・そのバランスの中でもがいているのかな? あ、これは僕の見解ですけどね」

坂口団長が教えてくれた。

俺は少しショックだった。

中田のレベル上げで人恋しくなったのだろうか。

まさかこんなことが見抜けないなんて・・。

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