第68話 社長


調査中、ハジメは屋敷に所属する人間を締め上げたこともあった。

推測通り、裏社会の人間だった。

表のペーパーカンパニーでは、身寄りのない子供や社会的弱者を支援する会社を運営している。

そして実際に寄付などを行っていた。

また、この会社に連なる行政や治安組織、警察などもグルだった。

もっとも一部の連中なのは間違いないが。

見えないところでは家出少女などを薬漬けにして、ある程度の年齢になると風俗などで働かせる。

役に立たなくなれば、臓器提供など人体パーツとして売られたりもしたそうだ。

そして、そんな人間がいなくなっても、誰も気づかない。

こんな世界になり、より過激になってきていたようだ。


そのうえ、この社長と呼ばれる男は、レベルのことを理解していた。

一般的な人間を標的にすると、足がつく。

だからこそダンジョン帰りなどの人間を拉致してきていた。

ダンジョンで亡くなったことにすればいい。

そんな人を倒して自分のレベルを上げる、それを繰り返していたようだ。


ハジメは調べるに従って、自分が深く暗い闇に沈んでいくような感じがした。

同時に、言葉ではない衝動が静かに沸き起こるのも感じていた。

消滅させる。

倒すとか殺すなどというものではない。

完全に世界から消滅させる。

ハジメの頭に浮かんだ言葉だった。

そして実行に移す日。

ポチと一緒に屋敷の前に来ていた。

時間は21時。

ハジメは、屋敷の門にある呼び出しベルを押す。


ピンポーン・・。

『はい、どちら様?』

「夜分に申し訳ありません。 育成課の原さんのお使いで伺ったものです」

ハジメは丁寧に言葉を出していた。

時間と原という名前。

これが割符のような合図となっていた。

『了解しました。 どうぞお入りください』

インターホン越しの声と同時に、門の鍵が外れる。

ハジメはゆっくりと門を開け、中へ入って行く。


屋敷の中では警備兵だろうか。

武装した連中が徘徊している。

ハジメが屋敷に入って行こうとすると、警備兵が近寄ってきて片手を挙げる。

「すみません。 犬を連れて入られては困ります」

ハジメは素直にその指示に従う。

門の外にポチをつなぐ。

「ポチ、ここで待機な」

『ハジメ、いつでもいけるからな』

ポチが答える。

警備兵にはワンワンとしか聞こえない。


ハジメは警備兵に案内されて屋敷に入って行く。

屋敷に入り、今度は中の案内人に連れられて社長のところへ移動となった。

ドアを開けられて、中に入る。

社長が何かを飲みながら、椅子に深く腰掛けて待っていた。

「ようこそ・・君は・・初めて見る顔だね。 少し驚いたかもしれないが、原さんによろしく言っておいてくれ」

社長はそう言いながら、子供の頭を撫でていた。

「あっちへ行ってなさい」

社長にそう言われ、子供が移動する。

ハジメは無言で見つめていた。

「君は無口だね・・まぁ、初めてお遣いで来る連中は皆同じようなものだが・・さて、本題だ。 原さんのお遣いということは、今度の情報だね。 ま、座り給え」

社長はハジメに椅子を勧める。

ハジメはゆっくりと椅子に座る。

周りの壁際には3名の武装した男がいた。


社長はグラスに入った飲み物をゆっくりと飲みながら、ハジメを見つめる。

「うむ・・君は、何か不思議な感じがするが・・スキルか何かだろうか? いえね、僕も先日レベルが上がったものでね・・」

社長もレベル上昇はうれしかったのだろう。

気分は良いみたいだ。

「社長、原さんからの言葉をお伝えします」

ハジメの言葉に、社長はうなずく。

「社長・・すまない。 だ、そうです」

ハジメが落ち着いた口調で言葉を出していた。

「は? な、何を・・」

社長がそこまで言葉を出した時だ。

壁際の武装した3名が突然崩れ落ちた。

!!

「な、なんだ? いったいどうしたんだ?」

社長のうろたえる言葉を聞きながらハジメは思う。

なるほど・・俺の動きは見えなかったようだな。

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