第65話 捜索隊、到着


「カハッ・・はぁ、はぁ・・」

楠木班長がちょっと色っぽい吐息を出していた。

ドキッとするぞ。

「む、村上さん・・あなた、いったい何者なの?」

楠木班長がゆっくりと歩いて俺の方へ近づいてくる。

俺の身体を舐めまわすように見て、うなずく。

「ま、捜索隊が来るまでしばらく時間があるでしょうから、少しお話しましょうか」

楠木班長が微笑み、オーガキングの装備品などを回収していた。

・・・

案外しっかりとしているな。

俺も回収のお手伝いをする。

「村上さん、これがレベル27の強さってわけね・・私も結構なものだと思ったけど、まだまだだわね」

すみません楠木班長・・実はレベル31なんです。

俺はすかさず心の中で突っ込む。


楠木班長が最後の装備品を回収して俺の方を見る。

「村上さん、素材班の仕事で重要なものがあるのよ」

「な、なんですか?」

「うん、実はね…まだ、他の隊員たちには言わないで欲しいのだけれど、オーガジェネラルやキング、初見だし貴重なものなのよ」

楠木班長がそう言いながらナイフを取り出していた。

そして、迷うことなくオーガキングの胸の辺りに突き立てる。

グッとナイフを動かしながら、何かを探っているようだ。

もう片方の手には魚職人などがよく付けているグローブがはまっていた。

オーガキングの体にグローブの手を突っ込み、まるで手術のような感じで何かを探していた。


「あったわ!」

楠木班長が嬉しそうな顔をしながら、オーガキングから光る石を取り出していた。

俺に言葉はない。

「フフフ…これは魔石よ」

「魔石?」

「そう、いろいろ使い方が分かってきたところなのよ。 オーガの魔石はあったけど、ジェネラルやキングのは初めてね」

楠木班長が手際よくジェネラルたちの魔石も回収。

俺は衝撃だ。

本当は異世界じゃね?

でも、どうやって使うのだろう?

『ハヤト様、あの石で武具などを作ると、その魔物レベル相当の能力が備わったものが出来上がります。 石をそのままはめ込んでもいいし、加工して使うのもアリですね。 ただ、その加工が難しいのですが、誰か適任者がいるのでしょう』

ベスタさんが回答してくれた。

なるほど…てか、何で教えてくれなかったんだ、ベスタさんよ。

『ハヤト様には私がいるではありませんか。 それに加工にはスキルが必要となります』

「なるほど…」

スキルがいるなら、俺には不要だな。

…加工かぁ…それもアリかもな。

俺は頭の隅にチェックをした。


楠木班長が岩場に腰を下ろす。

片手で自分の近くの岩をポンポンと叩く。

俺に座れということか。

俺が座ると、楠木班長が話しかけてきた。

「回収も終わったし、ゆっくりと待ちましょう・・で、いったい何者?」

楠木班長がジッと俺を見つめる。

「い、いえ・・普通の・・ただのヲタですよ。 自分を鍛えるのが好きなヲタです」

俺は苦しい言い訳をする。

「はぁ…そんなおやじギャグを聞くつもりはないわ。 普通じゃないわよ。 組織が運営して、ようやく私たちのレベルに到達できるのよ。 それを個人で超えるなんて・・ありえないわ」

楠木班長が鋭く突っ込む。


そりゃ俺のレベルの発現って、みんなよりも先行してましたからね。

でも、そんなことは言えるはずもない。

余計な事案が増えるだけだ。

だから俺はある程度、正直に答えることにした。

「楠木班長・・その・・俺の強さですが・・あまり人には知られたくないっていいましたよね」

楠木班長はうなずく。

「この現場の魔物ですが、班長が倒したことにしてもらえますか?」

「あのね・・う~ん・・でも、なんで知られたくないの? 普通はみんな過剰にアピールしてくるわよ」

「実は・・俺って、人をあまり信用していないのです。 目立つと必ず妬みを受けます。 出過ぎる釘は打たれないなんていいますが、その重圧に耐えられないのですよ・・」

・・・

・・

しばらく俺の身内話などをした。

両親がとてもいい人で、あまり大きな金額ではないが、騙されたりしていたこと。

身内が特にえげつないことをするなど。


「ふぅん・・そうかぁ・・」

楠木班長がしばらく考えていたかと思うと、微笑みながら答えてくれた。

「うん、このことは私の中にしまっておくね。 でも、何かあったら必ず手伝ってね。 それは約束して欲しいわ」

俺は即答できなかった。

「・・善処します」

「何よそれぇ~」

「え、いや・・その・・」

俺があたふたとしていると、遠くで声が聞こえてきた。

塞がれた岩場の方から人が駆け寄ってくる。

どうやら捜索隊らしい。

真田助教と見たこともない人たちが5人ほどついて来ていた。


「楠木班長、お待たせしました。 無事で何よりです」

真田助教が挨拶をする。

「ありがとう、真田さん。 それに攻略組の人たちね。 本当にありがとう」

攻略組の人たちが、オーガキングの死体を眺めていた。

「これって、オーガキングだよな」

「あぁ、俺も初めてみるが、素材班の班長が倒したのか? すげぇな」

「えっと、回復とか必要ないですかぁ」

・・・

ブツブツと会話しながら俺と楠木班長を見る。

すぐに楠木班長だけに目線が集中するが。

俺などアウトオブ眼中なんだろうな・・これでいい。


真田助教と楠木班長がいろいろと話していた。

攻略組達はオーガキングに興味深々だ。

俺のことは完全にスルーしてくれている。

攻略組の若い男だろうか、楠木班長に声をかけていた。

「班長さん、是非攻略組に来てくださいよ。 オーガキングを倒せる人なんて、なかなかいないですよ。 それもソロでなんて・・」

楠木班長がチラッと俺の方を見たが、微笑んで返答。

「まさか~、素材班でもこういった具合に不意の出会いがあるのよ。 言っちゃあなんだけど、私くらいの人がいないと、貴重な素材が集まらないでしょ」

「そりゃそうか・・アハハ・・」

明るい感じで会話が進んでいる。

「まぁ、今回は運が良かっただけね」

楠木班長がそう言ってオーガキングの死体を見つめる。

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