第64話 オーガキング


楠木班長が急いで俺の方に駆け寄ってくる。

・・・

「村上さん! 大丈夫でしたか・・って、倒したのですか? オーガジェネラルを・・」

「え、えぇ、まぁ・・一応・・」

俺は歯切れ悪く答える。

「ふぅん・・そうなんだ」

楠木班長が不審そうな目で俺を見る。


「ま、無事だったからいいわ。 それよりもごめんなさいね、いきなりこんな危険な目に合わせてしまって。 真田助教たちは無事だったようね・・あの岩が崩れたおかげで、オーガジェネラルの追撃を受けないで済んだわね。 それより・・」

楠木班長が俺をジッと見る。

「な、何か?」

俺はその緊張感に耐えられない。

「村上さんのレベルは27って申告してたけど、嘘じゃないみたいね」

楠木班長がペコッと頭を下げていた。

「く、楠木班長・・やめてください」

俺は焦ってしまった。

「いえ、当たり前のことよ。 ありがとう、あなたのおかげで被害を出さずに済んだのは事実よ。 それに真田助教たちは外に出る方向で動いているはずだしね」

楠木班長が教えてくれた。

マニュアルがあるそうだ。

何か事案が発生した場合。

まずは帰還を優先するようにと。

そして、改めて部隊を編成し、再捜索に向かうそうだ。


「・・さてと、これからだけど・・地味な作業になるけど、あの瓦礫を取り除いていくしかないわね。 その前に、このオーガジェネラルの武具をもらっておかないと・・」

楠木班長がヤレヤレという感じで微笑む。

だが、それどころではない。

オーガキングが近づいて来ていた。

俺は少し迷ったが、楠木班長に伝える。

「楠木班長・・実は・・魔物が近づいて来ています」

「え?」

楠木班長が俺の顔を凝視する。

「ほんとです」

俺はそう言って指を向ける。

「あの岩の向こうに、おそらくですが、大物がいます」

楠木班長が俺の顔を見て何か言いたそうな感じだが、すぐに真剣な顔つきになる。

「なるほど・・何か、いるわね。 このプレッシャー・・嫌な感じね」


間もなく、オーガキングが現れた。

頭をゆっくりと動かすと、俺達の方でロックオンする。

間違いなくニヤッと笑った。

すぐに大きくジャンプして俺たちの方へ向かってくる。

何度かジャンプすると、俺達の前に到着。

結構速いな。

俺は冷静に分析。

レベル23、楠木班長と同じか。

俺がそんなことを思っていると、オーガキングが言葉を出していた。

「グフフ・・人間の女がいる・・子供たちをつくらなきゃな・・グフフ」

口からはよだれが流れていた。

楠木班長は衝撃だったようだ。

「・・しゃ、しゃべるのね・・」


グォォォオオオオ!!!

オーガキングが咆哮と同時に右足をドーンと踏み抜いた。

「ハゥ!」

楠木班長が妙な声を出したかと思うと固まっている。

俺も嫌な空気の振動を感じていた。

「グフフフ・・女は後でいただくとして、オスは要らないな」

オーガキングが流暢に言葉を出す。

結構上手にしゃべるじゃないか。

俺は余裕で対処できていた。

まぁ、言葉というよりもオーガキングの言語が自動で変換されているだけのようだが。

このレベル世界の恩寵らしい。

言語による意思疎通は、以前よりも緩和されていた。


オーガキングが不用意に俺の方へ腕を伸ばしてくる。

俺はその腕が触れる寸前で軽く弾いてやった。

パァァァン!!

!!

オーガキングが明らかに驚いた表情をする。

本当に人間のような感じだな。

見た目は鬼か猿かという感じなのに。

「お、お前、動けるのか? オレの咆哮と激震踏あしぶみを受けても動けるなんて・・」

オーガキングがつぶやく。

俺は、こんな気持ち悪い魔物と会話などしたくない。

オーガキングが驚いているところへ、容赦なく迎撃を加える。

「フン!」

左拳で中段突きだ。


オーガキングの反応が速い。

バッとその場から飛び退いた。

だが、右わき腹から出血をしている。

オーガキングが俺の方を見ながら、右わき腹を確認していた。

手で何度か撫でて、その手を見つめる。

どうやら驚いているようだ。

手の平についた血を見て、俺を見る。

「こ、このエサごときがぁ・・」

オーガキングは明らかに怒っていた。


俺はオーガキングがしゃべっている時に、既に距離を詰めていた。

オーガキングは反応できていない。

スッと俺の右指先をオーガキングのお腹に触れさせる。

そのまま右足をドンと踏み込みながら、身体全体をコマのように一瞬で捻る。

肩、腰、足が同時に動き、右掌打を放った。


ドン!!


オーガキングの背中の方から肉がはじけ飛ぶ。

そのままお腹に穴が開いていた。

オーガキングが自分のお腹を見ようと、顔を下に向けると、そのまま突っ伏して絶命する。

ドーン・・。

これって、オーガの倒れ方なのか?

俺はフトそんなことを思う。

『ハヤト様の攻撃の結果です』

ベスタが冷静に突っ込んできた。

・・

ベスタさん、変な突っ込みはいいから。

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