第62話 アイテムボックスじゃねぇかよ!
楠木班長と真田助教が先導してくれていた。
楠木班長が左手を水平に挙げて立ち止まる。
そして無言で指を動かしていた。
・・・
なるほど、魔物がいる。
楠木班長、よくわかったな。
「あそこと、あそこ・・それに・・」
楠木班長が魔物の位置を指さしていた。
「なるほど・・オーガですな。 レベル的には16程度でしょうか」
真田助教が自然と答える。
・・ハズレ、レベルは17です。
俺は頭の中で答える。
真田助教は、はっきりと対象のレベルがわかるわけではないようだ。
今までの実戦などの経験値なのだろうか。
よくわからないが。
ま、それほどの誤差でもないので俺は放置する。
素材班に残った連中も緊張しているのだろう。
真剣な眼差しで楠木班長と真田助教の言葉をしっかりと聞いている。
「班長・・私が先制攻撃をしかけます。 その後、追撃をよろしくお願いします」
「えぇ、いつもの通りね。 ま、オーガ程度ならどうということはないわ」
「皆さん、中級階層の魔物との戦闘経験はないでしょう・・今から私たちが戦うので、よく見ておくように」
真田助教がそう言うと、飛び出した。
!
結構速いな。
俺以外の連中からは、オーガなんて漫画で見ただけだぞ、などという言葉が聞こえてくる。
今、この俺たちの近くのフィールドには3匹のオーガがいる。
それと少し離れたところにレベル20のオーガジェネラルが2匹いる。
こちらからは目視できないところだ。
先行しているオーガの後ろの岩の奥にいるからな。
そして、少し厄介なものもその奥にいる。
オーガキング、レベル23だ。
俺にはベスタさんの情報で位置は把握している。
さて、真田助教だが、危なげなくオーガを討伐していた。
やるなぁ・・俺は素直に感心する。
真田助教のレベルは21、楠木班長はレベル23だ。
オーガジェネラル辺りはどうにかなるとして、オーガキングが問題だろう。
ギリギリ勝てるかもしれないが、負傷するかもしれない。
それに真田助教は気づいていないだろうが、オーガジェネラルが近寄ってきている。
今の戦闘を感じたようだ。
真田助教は笑顔でオーガの武具を回収していた。
「さすがね真田助教・・皆さん、魔物の討伐に対しては迷わないこと。 これは必須です」
楠木班長が教えてくれた。
若い女の子が片手を挙げている。
!
「どうしたの、鈴木さん」
楠木班長が声をかける。
「はい・・魔物と遭遇した時に、相手のレベルとかわからない時、どうすればいいのでしょうか?」
「そうねぇ・・絶対に勝てない魔物っていうのは、生物なら直感で感じるものだし・・私たちもはっきりとわかるわけじゃないの。 こればかりは経験を積むしかないわね。 でも、スキルで相手のレベルがわかる人がいたりするのだけれど、その枠を取ってまで必要なスキルかと言われれば・・ね。 直感的にヤバそうなら、まずは逃げることね。 そして、基本は気づかれないこと・・かな」
楠木班長が言う。
「気づかれない・・ですか?」
「そう・・だからこそ進んで行くときに、十分すぎるくらい周りに警戒しておかないと、何が起こるかわからないし、起こってからでは遅いしね」
楠木班長の言葉に、俺も納得。
「・・難しいですね」
鈴木さんだったっけ?
苦笑いしながらうなずいていた。
「後、何か気づいたことがあったら教えてくれる?」
楠木班長が俺達を見渡す。
「班長、真田助教が持ってきている武具ですが、持ち帰るのですか?」
今度は若い男が聞いていた。
「そうよ・・森君、持って帰るのが面倒くさいって顔だわね」
「い、いえ・・そういうわけでは・・」
「ハハ・・大丈夫よ。 私が持って帰るから」
楠木班長の言葉にみんなが「「「え?」」」という表情になる。
「真田さん、ご苦労様でした」
「はい、班長」
真田助教がオーガの武具を手渡す。
楠木班長は武具を受け取ると、そのまま自分の前の空間に手を入れた。
!!
手が・・空間に消えていた。
肘から先が見えない。
だが、切断されているような感じでもない。
明らかに何かの空間に手を入れているが、それが見えない。
楠木班長がいたずらっ子がいたずらを成功させたような顔をしてこちらを見る。
「フフフ・・驚いたでしょ。 私、収納ボックスっていうのかな・・スキルで持っているのよ」
!!
アイテムボックスじゃねぇかよ!
俺には衝撃的だ。
地球だよな?
とはいえ、レベルのある世界になって異世界のような感じだが、現代文明は維持できている。
・・・
えぇい、そんなことはどうでもいい。
俺は頭を軽く振る。
俺の他の3人も同じように驚いていた。
レアだよな・・俺は頭で思う。
『はい、レアなスキルです』
ベスタが答えてくれる。
「絶対便利なスキルだよな。 でも、スキル枠がなくなってしまうし・・」
俺がそこまで考えた時だった。
オーガジェネラルが迫って来ていた。
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